資金難の大型インフラ、「受益者負担」で打開できるか——ザイダスドック問題が問いかけるもの
交通政策の専門家が提唱する新たな費用分担モデルとは
アムステルダムの南部ビジネス地区「ザイダス」の地下に道路と鉄道を移設し、地上空間を再開発する大規模インフラ計画「ザイダスドック」が、慢性的な資金不足によって前進できずにいる。オランダ国内では同様の事情を抱える道路・鉄道整備プロジェクトが相次いでおり、財源の確保が喫緊の課題となっている。こうした状況を打開する方策として、インフラ投資によって利益を得る不動産オーナーや企業に費用の一部を分担させる「受益者負担」モデルが、専門家の間で改めて注目を集めている。
「国が全て無償で手配する時代は終わった」
交通政策を専門とするウェイナント・フェーネマン教授は、現行の財源モデルの限界を率直に語る。「国が全てを無償で手配するという考えはもはや維持できない」。教授が根拠として挙げるのが、ザイダスドック整備に伴う周辺不動産の価値上昇だ。実際にある住宅では資産価値が7万ユーロ以上増加したという事例も確認されており、インフラ投資の恩恵が特定の受益者に集中している実態が浮かび上がる。受益者負担モデルとは、こうした価値上昇分の一部を費用負担という形で社会全体に還元させる仕組みだ。税収に頼らずとも、整備によって直接利益を得る企業や個人から資金を集めることで、プロジェクトの財源を補完できると教授は主張する。
停滞するメガプロジェクトへの処方箋
ザイダスドックはアムステルダム南部の交通渋滞を解消し、周辺エリアの大規模な都市開発を可能にする計画として長年議論されてきた。しかし総事業費の規模と国の財政的な優先順位の問題から、具体的な着工の見通しは立っていない。受益者負担モデルが導入されれば、不動産開発業者やオフィスビルのオーナーといった直接の受益者が費用の一端を担うことになり、国や自治体の財政負担を軽減できる可能性がある。類似の仕組みはイギリスやアメリカの一部都市ですでに採用されており、オランダでも制度設計の議論が本格化しつつある。
在蘭日本人にとっての意味
ザイダスはアムステルダム南部の国際ビジネス拠点であり、日系企業のオフィスも多く集積するエリアだ。同地区の不動産を所有・賃借している企業や個人にとっては、受益者負担モデルの導入が将来的なコスト増につながる可能性もある。一方で、インフラ整備が実現すれば交通アクセスの向上や周辺地価のさらなる上昇も見込まれるため、一概に不利益とは言えない。オランダ政府が受益者負担の制度化に向けて動き出すかどうか、今後の政策論議の行方が注目される。財源問題を抱える大型インフラ計画はザイダスドックだけではなく、この議論の結論はオランダ全土の都市開発の在り方を左右する可能性を秘めている。
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