末期癌の教授が「AI分身」を制作——死後も講義し、問いに答え続けるために
オランダの転移性前立腺癌を抱えるヤン・ロットマンス教授が挑む、知の継承プロジェクト
オランダの著名な教授ヤン・ロットマンス氏(65歳)が、自身の「AIデジタルツイン(AI分身)」の制作を進めている。気候モデルや社会システムの変革研究における第一人者として知られる同氏は、現在転移性前立腺癌と闘いながらも、自らの知識を未来の世代へ伝えるための先駆的なプロジェクトに取り組んでいる。NOS(オランダ公共放送)のインタビューで、ロットマンス氏は「こうすることで、自分がもういない場所にも存在し続けられる」と語った。
知識の「器」をAIで作る
このプロジェクトを手がけるのは、かつてサッカー界の名将ルート・フリットのデジタル分身を開発したスタジオ「The Synths」だ。ロットマンス氏の数十冊に及ぶ著書、数百本の学術論文、そして過去の講義音声・映像が学習データの核となる。先週にはスタジオで本人の音声、映像、表情、声質のすべてが収録され、今後数か月かけて完成度の高いバージョンが制作される予定だという。初版は2025年内にオンラインで公開される見通しで、将来的にはホログラムとして壇上を歩く形態も想定している。
ロットマンス氏自身、このAI分身との「対話」にも期待を寄せている。「インターネットが2週間停止したらどうなるか」といった、自らが長年警鐘を鳴らしてきた社会的課題について分身と議論し、「自分が思いつかなかった解決策が出てくるかもしれない」と語る。現段階ではAIの応答は過去の発言・著作をベースにした論理的なものにとどまるが、いずれは自分自身が驚くような洞察が生まれることを期待しているという。
リスクとコントロールの境界線
誤情報の拡散や意図しない主張をAI分身がおこなうリスクについて、ロットマンス氏は正面から認める。「だからこそ、徹底的なテストでエラーを取り除く」と述べた上で、本人が存命中は新たな知見を自ら検証し、没後はWikipediaのような相互修正型の仕組みで対応できると説明する。「気候変動否定論者がすでに私の論文を曲解して使っている。先駆者であり続けることで、まだ自分でコントロールできる」というのが彼の論拠だ。
一方、AI分身を「個人的な代替品」にはしないと明言している。妻からも「そんなAIアバターの隣では眠れない」と言われたとユーモアを交えて語りつつ、プライベートな領域や専門外の質問には答えないよう設計すると強調した。また、医師からは2024年時点で余命5年との見通しが伝えられているが、「直近の検査結果は励みになるものだった」とも述べており、現在も精力的に活動を続けている。
「25年後は誰もが持つ」——オランダ社会への問い
ロットマンス氏は、自分の試みに対して周囲の研究者がほぼ誰も賛同しないことを、むしろ「良いサインだ」と受け止めている。「誰もが熱狂していれば、それは十分に革新的でないということ。懐疑的な声が多いほど、正しい方向にいると確信できる」と語った。そして25年後には、ほぼすべての人がデジタルツインを持つ時代が来ると予測している。
在蘭日本人にとっても、このプロジェクトは無縁ではない。AIによる「人格の継続」という問いは、著作権、肖像権、グリーフ(悲嘆)ケア、さらには教育のあり方まで幅広い社会的議論を引き起こしうる。オランダが、この倫理的フロンティアにどのような制度的・文化的枠組みを設けるかは、今後の注目点となるだろう。
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情報源: NOS Algemeen
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