「脱政治化」こそ民主主義最大の敵――デン・ハーグへの警告
1980年のデン・ユイル演説が問い直す、国益と選択肢の提示
民主主義は、選択肢が見えなくなったとき静かに死ぬ――そう喝破したのは、今から45年以上前のオランダだった。NRCに掲載されたコラムは、その古い警告を現代のオランダ政治に重ね合わせ、鋭い問いを投げかけている。ロシアへのミサイル支援の是非、新興メディアの規制、防衛技術の自国開発か米国依存かといった問いに、オランダ政府は有権者に対して明確な回答を示せているだろうか、と。
デン・ユイルの預言
1980年、労働党(PvdA)の院内総務だったフープ・デン・ユイルは、当時の政治状況に鋭く反応した。「最も恐れるべきことは、なされなければならない選択を握りつぶし、隠蔽することだ」と彼は断言した。そして、「脱政治化こそが民主的な議会制度にとって最も危険な敵だ」と明言した。コラムはデン・ユイルをしばしば「預言的」と評するが、それは誇張ではない。人々が「自分の一票が意味を持つ」と感じられるのは、明確な選択肢が目の前に示されているときだけだ、という彼の主張は、現在のオランダ政治においてそのままの形で通用する。
政治学者のルーベン・ロスは博士論文(Expert politics, 1917–1994)で、専門家主義が政治を脱色していった過程を丁寧に追った。また英国の研究者フィリップ・カンリフは著書 National Interest: Politics After Globalization の中で、過去30〜40年にわたる西洋諸国の指導者が「国益の言語」を失ってきた過程を批判的に分析している。この視点は、オランダ単独の問題ではなく、先進民主主義全体が共有する病理として捉えるべきだろう。
Brexit騒動が示した「ドラマ政治」の罠
コラムが具体的な反面教師として挙げるのが、今週ちょうど10周年を迎えた英国のBrexit国民投票だ。「Take back control」というUKIP(のちのReform UK)のシンプルなスローガンに対し、残留派は「より安全で、より豊かに」と訴えたものの、当時のスピンドクター、マイケル・ゴーブに「プロジェクト・フィア(恐怖政治)」と切り捨てられた。「国民は専門家にうんざりしている」という言葉は、脱政治化への反動がいかにポピュリズムの温床になるかを端的に示している。
オランダにとってこの教訓は決して他人事ではない。コラムは具体的な政策課題を列挙する。防衛調達の費用と期間を正直に説明すること、DigiDシステム向けの国産クラウド開発の重要性を市民に伝えること、そして医療現場で長らく事実上の「コード・ブラック(受け入れ限界超過)」が続いていたにもかかわらず、それを認めず現場の医師任せにしてきたことへの政治的説明責任など、いずれも有権者に対して正面から向き合うべき論点だ。
「ソーシャルメディアの憂さ晴らし」からの脱却
コラムが最終的に訴えるのは、技術ポピュリズムと陰謀論的なハイパー政治に対抗する唯一の処方箋は、議会に戻り、実質的な内容を伴う論戦を行うことだ、という点だ。ソーシャルメディア上での得点稼ぎや「炎上」パフォーマンスに終始する政治家は、もはや真剣に受け止める必要はないとコラムは断じる。在蘭日本人の視点からも、この議論は無縁ではない。医療体制の優先順位、デジタル行政インフラの安全保障上の位置づけ、そして防衛費増大の負担を誰がどう担うか――これらは外国籍住民にも直接影響を及ぼす政策だ。民主主義の質は、選挙の頻度ではなく、選択肢の明確さによって計られる。デン・ユイルが残したこの問いかけは、2025年のオランダ政治においても色褪せていない。
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情報源: NRC
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