SpotifyとUniversalのAI音楽契約が問いかけるもの——「スロップよりはマシ」という基準
ストリーミング市場の収益化競争が、アーティストの権利と音楽の質を変えていく
SpotifyがUniversal Music Group(UMG)と新たな提携を発表した。ユーザーが追加料金を支払うことで、AIを使って既存の楽曲をミックスしたりカバーしたりできるツールを提供するというものだ。Taylor Swift、Billie Eilish、Sabrina Carpenterらを擁し、Def JamやEMIといったサブレーベルを傘下に持つ世界最大の音楽レーベルとの合意は、音楽ストリーミングの未来像を大きく塗り替えうる一歩として業界の注目を集めている。
「スロップよりはマシ」——CEOが示した基準
この提携発表に際して、SpotifyのCEOアレックス・ノルストロームが英紙『ガーディアン』に語った言葉が波紋を広げた。AI音楽を容認する理由として挙げたのが「スロップ(slop)よりはマシ」というフレーズだ。「スロップ」とは、質の低い、魂のないコンテンツを指す俗語である。つまりSpotifyにとって現在の基準は「最低限、粗悪なコンテンツでなければよい」ということになる。
すでにSpotifyのライブラリ全体の約44%がAI生成音楽とされており、この数字は今後さらに増えることが予想される。収益面では、Spotifyはここへきて初めての黒字化を達成。契約発表後にはSpotify株が16%上昇した。ただしこの上昇は、直前の約40%下落からの回復局面であり、手放しで喜べる状況とは言い難い。
値上げとリストラが示す収益化の圧力
こうした動きの背景には、Spotifyが抱える財務上の切迫感がある。2022年の投資家向け説明会以降、同社は全従業員の約4分の1にあたる2,300人超を削減した。さらにプレミアムプランの月額料金は5月に14.99ユーロから17.99ユーロへと引き上げられた。それでも飽き足らず、いわゆる「スーパーファン」と呼ばれる高課金ユーザー向けには、AIエージェントが個人の好みに合わせて編集するポッドキャスト機能なども展開予定だという。
フィナンシャル・タイムズによれば、Spotifyはこの方向性を「generation(ジェネレーション)の時代」と位置づけており、プラットフォーム体験の徹底的なパーソナライゼーションを目指している。しかし皮肉なことに、その「パーソナライズ」の恩恵を受けるのは主にユーザー側であり、アーティスト側の個性はAIによって自在に組み替えられる素材として扱われる。
アーティストの「同意」はどこまで自発的か
今回の契約ではアーティストの同意を前提とする、とされている。しかし批判的な見方も根強い。契約交渉の場でSpotifyとUMGという巨大プレイヤーを前にしたとき、個々のアーティストが本当に自由意志で「拒否」できるのか、という疑問だ。さらに同意しないアーティストが、プレイリストでの露出を減らされるような形で事実上の不利益を被る可能性も指摘されている。
比較軸として注目されるのが、フランスの小規模ストリーミングサービス「Deezer」だ。同社はAI音楽の排除を積極的に打ち出し、アップロードされた音楽のうちどの割合がAI生成かを公開するなど、人間のアーティストを守る姿勢を明確にしている。一方Spotifyは人間のアーティスト向けに「本物である」ことを示すバッジの提供を始めたが、AIコンテンツを積極的にフィルタリングするわけではない。
在蘭日本人を含む音楽ファンにとって、この変化はすでに日常の一部だ。月々の利用料が上がる一方で、再生リストに占めるAI生成コンテンツの割合は静かに増え続けている。自分が聴いているのが人間の演奏なのかAIの生成物なのかを知る手段は、今のところ限られている。音楽業界がどのような形でAIと共存していくのか、その答えはまだ出ていない。
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情報源: NRC
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