光で動くフォトニックチップ、オランダが研究最前線に立つ理由
電子チップとの共存が鍵——AI・医療・データセンターへの広がり
爪ほどの大きさのチップの上で、長方形の構造体が鮮やかな緑色に輝く。トゥウェンテ大学のナノフォトニクス教授ソニア・ガルシア=ブランコが自身のラボで説明する。「これは光信号の増幅器です。現在の装置よりはるかに小さい」。同じ廊下の別のラボでは、細い光ファイバーケーブルが束になって伸びる別のチップが、従来型の大型センサーを代替しうる可能性を示していた。
電気の代わりに光(フォトン)で情報を処理する「フォトニックチップ(光学チップ)」への関心が、世界規模で急速に高まっている。米NVIDIAが数カ月前に米国のフォトニクス企業2社に計40億ドル(約6,000億円)を投資したことは、その象徴的な出来事だ。EUおよびオランダの国家成長基金プログラム「PhotonDelta」もヨーロッパでの産業化を後押ししており、トゥウェンテ大学やアイントホーフェン工科大学(TU/e)を擁するオランダはスピンオフ企業も含め、この分野で重要な役割を担う。
なぜ「光」が電気より優れているのか
フォトニックチップが注目される理由は、光そのものの物理的特性にある。電子は質量と電荷を持つため、物質中を移動する際に抵抗が生じ、熱を発生させる。一方、フォトンは質量も電荷も持たないため、こうした損失がない。「光は複数の車線を持つ高速道路のようなもので、電流は一車線道路に過ぎない」とトゥウェンテ大学のペペイン・ピンクセ教授は説明する。さらに、光は複数の波長を同一チャンネルで干渉なく送れる。電子同士は反発し合うが、フォトン同士は交差してもすり抜けるためだ。
この特性からフォトニックチップは低消費電力かつ高帯域幅の情報転送を可能にし、とりわけ膨大なデータを処理するデータセンターやAIの用途で期待が大きい。TU/eの集積フォトニクス教授マルティン・ヘックは「コンピュータに必要な三要素——処理、記憶、情報転送——のうち、今すぐ電子系をフォトニクスで置き換えられるのは転送の部分だ」と現状を整理する。
「賢くない」チップが医療を変える可能性
フォトニックチップには現時点での限界もある。フォトン同士が相互作用しにくいため、演算スイッチを作るのが電子と比べて難しく、ヘック教授が「フォトニックチップ単体は正直、かなり頭が悪い」と評するほど演算機能は限定的だ。当面は電子チップと組み合わせて使うハイブリッド構成が主流となる。
しかし、その「センシング」能力の高さは医療分野に新たな扉を開きつつある。各物質は固有の波長の光を吸収・放出するため、光の「指紋」から物質の組成を特定できる。この原理を活用し、ガルシア=ブランコ教授のチームは30分以内に敗血症(血液感染症)の複数のバイオマーカーを検出できる血液センサーの開発を進めている。「敗血症は治療方針を素早く決める必要があるため、迅速な診断が命取りになる」と彼女は言う。
また別のラボでは、ダビッド・マルパウン教授がレーザー光からノイズを除去する光学チップを研究している。光と音波(圧力波)の相互作用を利用したこの技術は、精密計測や通信品質の向上に貢献しうる。
オランダ在住者への影響と産業的意義
フォトニックチップは今すぐ日常生活を変える技術ではないが、その影響は着実に広がりつつある。データセンターの省エネ化が実現すれば、急増するAIサービスの電力消費を抑制する効果が見込まれ、オランダ国内にも多くのデータセンターを抱える在蘭企業・利用者にとっても無縁ではない。医療センサーの実用化が進めば、オランダの医療現場での早期診断精度向上にもつながる。「工場レベルで何百万枚もの信頼性の高いチップを量産できる体制が必要だ」とピンクセ教授は課題を指摘する。研究から産業化へ——その橋渡しこそが、オランダのフォトニクス産業が次に挑む正念場となっている。
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情報源: NRC
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