クリトリスの神経を初めて3D画像化、蘭研究チームが解剖学の空白を埋める
欧州シンクロトロン施設で照射、「口が開いたまま閉まらなかった」
解剖学の教科書でさえ長らく正確に描いてこなかった器官が、ついて詳細な神経地図を持つことになった。アムステルダムUMCの胎生・胎児画像化を専門とするベルナデット・デ・バッカー准教授と、婦人科学のユディト・ハイルネ教授が率いる研究チームが、クリトリスの神経走行を世界で初めて3次元で画像化することに成功した。「あの映像を初めて目にしたとき、口が開いたまま閉まらなかった」とデ・バッカー准教授は振り返る。
従来の仮説を覆した「神経の樹」
これまでの科学的仮説では、感覚神経はクリトリスの亀頭部(glans clitoris)に向かうにつれて数が減少すると考えられていた。しかし今回の画像化によって、その逆が明らかになった。亀頭部で神経は途絶えるどころか、まるで樹木のように大きく分岐して広がっているのだ。デ・バッカー准教授は「骨盤から走ってきた大きな感覚神経が亀頭部で止まると思っていたが、そこで劇的に枝分かれしている様子が初めて見えた」と説明する。また、大陰唇にも多数の感覚神経が存在することが確認され、分娩時の会陰切開で損傷するリスクがある部位として新たに注目される。
この研究はEUとチャン・ザッカーバーグ財団が資金提供する「Human Organ Atlas(ヒト臓器アトラス)」プロジェクトの一環として実施された。人体のすべての臓器を3Dスキャンしてデータベース化するという国際的な取り組みで、デ・バッカー准教授はヨーロッパ各国から選ばれた9名の主任研究者の一人に名を連ねる。「博士課程の学生がクリトリスの歴史的研究をしていて、まだこれほど知識の空白が残っているなら、スキャンしない手はないと思った」という。
フランスの法律が生んだ「臓器ではない問題」
スキャンが行われたのは、フランス・グルノーブルのアルプス山麓に位置する欧州シンクロトロン放射光施設(ESRF)だ。電子をほぼ光速で加速させ、進路変更のたびに放出されるシンクロトロン放射光を利用するこの装置は、病院のCT スキャナーの1兆倍という出力を誇る世界最強のX線源であり、細胞内の小器官レベルまで識別できる解像度を持つ。研究チームはスキャン枠の確保に約1年を要した。
ところが、ようやく承認を得て試料を送り出した直後、予想外の壁にぶつかった。フランス側から届いたのは「皮膚が付着しているため、フランスの法律上これは臓器とみなせない」という連絡だった。試料は一度オランダに送り返され、スキャン枠は没収された。「女性の外性器が『臓器ではない』と言われたとき、世界人口の半分への侮辱だと感じた」とデ・バッカー准教授は語る。アムステルダムとフランスの解剖学者が連名で異議を申し立て、最終的には「組織ブロック」という名目で数カ月後に再スキャンが実現した。フランスの法律上は「今もなお臓器はスキャンされていない」状態だという。
外科医療と在蘭日本人にとっての意味
今回の知見は、複数の医療現場に直接影響をもたらす可能性がある。女性器切除(FGM)を受けた患者の修復手術、性別適合手術における神経保全、そして出産時の会陰切開の技術改善だ。神経の正確な走行が把握されることで、術後の感覚障害リスクを下げる手術手技の開発が期待される。オランダには在住外国人向けの婦人科・産科医療が充実しているが、今後こうした研究成果が手術プロトコルに組み込まれていけば、患者にとっての恩恵は国籍を問わない。解剖学の「当たり前」がいまだに書き換えられ続けているという事実は、医療への信頼と批判的な関与の重要性を改めて示している。
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情報源: NRC
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