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完成しない映画「ルッカ・モルティス」——グリーナウェイ、ホフマン、そしてオランダの助成金
社会 読了 2分

完成しない映画「ルッカ・モルティス」——グリーナウェイ、ホフマン、そしてオランダの助成金

伝説の監督と二人のオスカー俳優が紡ぐはずだった作品が、なぜ迷走したのか

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2023年12月のある土曜日、オランダ人の照明技師はシフォールから機材を積み込み、意気揚々とイタリアへ飛び立った。行き先はトスカーナの古都ルッカ。目的は、84歳の巨匠ピーター・グリーナウェイ監督の新作映画に参加することだ。キャストにはオスカー俳優のダスティン・ホフマン(89歳)とヘレン・ハント。荷台いっぱいの照明機材は総額100万ユーロ超に相当した。だが現地に到着した技師を待っていたのは、「ダスティンが来ない」というイタリア人スタッフの言葉だった。

ホフマンはロンドンの自宅で足止めされていた。出演料が口座に振り込まれるまで動かない、という意思表示だった。結局、技師は2週間待った末に手ぶらで帰国。自腹で切った航空券代やホテル代、機材輸送費の請求は、その後も長く解決しなかった。これは、関係者31人への取材と内部メール・WhatsAppメッセージ、オランダ映画基金(Filmfonds)の公開文書をもとにNRCとNieuwsuurが共同で明らかにした実態の、ほんの一端である。

助成金の流れと「incentive制度」の落とし穴

映画「Lucca Mortis」のオランダ側窓口となったのは、アムステルダムのプロダクション会社Witfilmのイリス・ラマースマ代表だ。グリーナウェイ監督と妻のサスキア・ボダッケはアムステルダム在住で、Witfilmとの協働実績があった。ラマースマは2023年1月、Filmfondsにincentive補助の申請書を提出した。この制度では、オランダ国内で発生した制作費用の**最大35%**をFilmfondsが現金で還付する仕組みだ。国際共同制作を国内産業への貢献と結びつける狙いがある。

ただし制度には厳格な条件が伴う。Witfilmはドキュメンタリーや小規模な国内作品を得意とし、ハリウッド規模の国際映画には不慣れだった。一方、Facing Eastという中国人とスイス人の経営者による製作会社が実質的な資金管理を担っていたが、ここでの支払い遅延・未払いが続出。撮影は最終的に2024年春にほぼ終了したが、多くのフリーランサーが数万ユーロ規模の未払い請求を年単位で抱えたまま放置された。

二つの「半完成品」とカンヌ落選

撮影後に待っていたのは、制作内紛という新たな火種だった。Facing Eastはグリーナウェイ監督の編集版に不満を持ち、監督を外して独自の編集を進めた。結果として現在、監督版と製作会社版の「半完成品」が2本存在するという異常事態になっている。製作会社は2026年のカンヌ映画祭に監督の知らないうちに自社版を出品したが、落選した。

ロケ地であるルッカ市の観光担当副市長レモ・サンティーニは「市の歴史的な街並みを世界に発信する初の大型国際映画として期待していた。何度も製作会社に問い合わせたが、いまだ回答がない」と述べている。市民が数カ月にわたる撮影中の通行規制や迂回路に耐えながら待ち続けた映画は、完成の見通しすら立っていない。

在蘭日本人にとっても、この一件は身近な問題と無縁ではない。Filmfondsの助成金は税金から拠出されており、オランダ在住者が間接的に制作を支えた形になる。国際共同制作への助成が適切に機能したかどうかは、今後のFilmfondsの審査基準見直しにも影響しうる。映画の今後については、いまのところ誰も答えを持っていない。

情報源: NRC

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