アーネム近郊の「食料の森」、2万本が着実に育つ——干ばつと採算の壁を越えて
オランダ各地に広がる食料の森、2030年に農地1,000ヘクタールを目指す
10月の風雨が吹きつけるなか、若手農家グループ「若い食料の森農家たち(Jonge Voedselbosboeren)」のメンバーたちはジャケットのジッパーも締めずに、アーネム南部のフィールドを案内してまわった。見学者の一人に届いた言葉が印象的だ。「ここでナッツや果物を育てるんだって。素敵ね」「でも、まだ何も育っていないよね」——メンバーのウィッツェ・ワルストラはその会話を紹介し、「それが今の私たちの状況を完璧に言い表している」と笑った。
2024年から活動を始めたこのグループは、かつて牧草地だった約13ヘクタールの土地に、7年をかけて多種多様な樹木や低木を根付かせようとしている。これまでに2万本の植樹を完了しており、11月中旬から始まる今植付けシーズンにはさらに5,000本を追加する予定だ。植付けが完了すれば、全体の9割が出そろうことになる。土地は環境系市民ファンド「ランド・ファン・オンス」と「アーアルトピア」が所有し、グループはこれを借地している。一部の6.5ヘクタールは有機酪農家に転貸することで収入の一部を賄うという、複合的な運営モデルを採用している。
記録的な干ばつも「なんとか乗り越えた」
今夏はオランダ各地で深刻な乾燥が続いたが、「食料の森デ・ラール(Voedselbos De Laar)」の植付けは概ね良好な状態を保った。メンバーのサーシャ・ブロンスは「この夏は本当にヒヤヒヤしました」と振り返る。灌水できる量には限りがあり、チームはあえて食用植物を守る役割を果たす樹種への水やりを優先した。その判断が奏功し、被害は局所的にとどまった。ただし、若いニワトコはナメクジに食べられ、ハマナスの苗は乾燥に耐えきれず枯死するケースが出た。それでも初の小規模な収穫として黒スグリ3品種を得ることができ、チョウゲンボウやヤマウズラ、カワセミといった野鳥の生息も確認されたという。
成長するムーブメント、そして浮かぶ課題
オランダ国内の食料の森は急増しており、統計局(CBS)によれば2025年時点で231農場・計367ヘクタールにのぼる。国家森林戦略には2030年までに農地1,000ヘクタールという目標が明記されており、支援団体「フォードゼルボスボウ財団」はそれを2028年に前倒し達成することを目指している。
一方で、撤退や伐採の事例も出始めている。ヘルダーラント州のある農家は「ほとんど手をかけなかった」と認めた上で、採算が取れないとして食料の森を整理し、カボチャ栽培に転換した。北ホラント州ではシマフクロウなど猛禽類の拠点になるとして、隣接する農地の野鳥保護を優先した新地主・国立森林管理局が食料の森を伐採するケースもあった。HASグリーンアカデミーの再生農業研究者マレンテ・ロキンは「『手をかけなくても育つ』という神話が裏目に出た面がある」と指摘する。実際には通常の農業と同様、継続的な管理が不可欠だという。
経済的な持続可能性については、ワーヘニンゲン大学のアンナ・ルードホフ社会学者が10月に博士論文として発表した研究が注目を集めている。彼女は「食料の森は財務的な収益だけで評価されるべきではない」と主張する。生物多様性の保全や地域コミュニティへの貢献を含む「ホリスティックな視点」こそが、新しい農業形態の真の価値を測る尺度になると訴える。通常の農業でも補助金なしでは成立しないケースが多い、という点も見落とせない事実として彼女は挙げている。
在蘭日本人にとっても、食料の森は身近な関心事になりうる。各地で農業体験ボランティアを受け入れており、デ・ラールでは近隣の小学生やウクライナ難民も植樹に参加した。農産物の加工・販売に関する無料ガイドも整備されつつあり、ナッツや食用葉、プレーリーバナナといった珍しい食材が市場に登場する日も遠くなさそうだ。
広告掲載にご興味のある方は こちら
情報源: NRC


