地域警官37年、人手不足が奪った「住民との時間」
会話の途中に3度呼び出される——オランダ警察の現場から
ライツェンダム=フォールブルフの地域警官、ジョン・ハイ氏(56歳)は夜勤明けに必ずソフトクリームを買う。深夜12時ごろ、マクドナルドの閉店直前に立ち寄るのが習慣だ。勤務は本来23時で終わるが、未解決の案件を夜間シフトに引き継ぐことは「しない」と決めている。隣人トラブルも、若者の騒音問題も、自分で片をつけてから帰る。その冷たいアイスには、一日中飛び回った後のわずかな「何もしない時間」が凝縮されている。そのハイ氏が今週、37年間の警察キャリアに幕を下ろした。
「コーヒー一杯」が信頼の基盤
ハイ氏が地域警官になったのは2011年のことだ。担当するのはダムシフト、ライツェンダム・セントラム、そして郊外の干拓地に広がる小村ストンプウェイクの3地区。彼がこだわったのは「アジェンダなしの巡回」だった。予定を入れず、バイクで地区を流す。そうすれば自然と住民と言葉を交わせる。「ここでコーヒー一杯、あそこでコーヒー一杯。そうやって信頼を積み上げる」。車ではなくバイクにこだわるのも、住民が気軽に声をかけやすいからだという。ストンプウェイクは外部への警戒心が強い閉鎖的なコミュニティで、当初は住民が「バイクを角に止めてくれ、近所に見られると面倒だ」と頼んでくるほどだった。それでも地道な訪問と地区の集会所での週1回の相談窓口設置、さらにInstagramでの情報発信を続けることで、若者から親世代まで幅広い信頼を獲得していった。
1勤務15人が5人へ——現場を蝕む人手不足
しかし近年、その環境は急速に変わった。担当署の1勤務あたりの人員は、かつての15人から繁忙日には5人にまで減少した。全国的な警官不足を背景に、管理職は穴埋め要員として地域警官に目を向けるようになったからだ。ハイ氏は地区の担当窓口でありながら、シフトの人員確保や緊急通報への対応も求められるようになった。デモの警備、機動隊員の代替、大規模イベントの警備——警察が担う業務は増える一方で、担い手は増えない。会計検査院は2025年6月、この人手不足によって数千件の届け出が未処理のまま放置されていると試算している。ハイ氏自身も、住民と話している最中に緊急呼び出しで席を外すことが常態化した。「1回の会話中に3度呼び出されることもある」という言葉には、地域警官としての葛藤がにじむ。訪問前に「今日は人手が少ないので、途中で行かなければならないかもしれない」と事前に断りを入れることが、今では当たり前になってしまった。
父の時代と、問われる警察の存在意義
ハイ氏の父もかつて警察官だった。1970年代、まだ各村に交番が置かれていた時代、自宅が事実上の「地域警察署」だった。玄関に青いランタンを掲げ、誰でも呼び鈴を押せばよかった。容疑者を自転車の後ろに乗せ、自宅の食卓で話を聞くこともあったという。「それが普通だった」とハイ氏は言う。警察が地域社会に根ざしていた時代の話だ。だが今、ハイ氏が問うのは別のことだ——社会の側が、もう警察を必要としなくなっているのではないか、と。人々はそれぞれの閉じた世界に引きこもり、警察官が一言でも言葉を間違えると、すぐに怒鳴られたり罵倒されたりする場面が増えたとハイ氏は語る。オランダ社会における警察と市民の距離は、制度上の問題だけでなく、社会的な断絶としても広がっている。在蘭日本人にとっても、地域の安全を担う警官の実態を知ることは、いざというときの対応や期待値の調整という意味で無縁ではない。地域警官の早期退職という一つの出来事は、オランダの公共サービスが静かに限界を迎えつつある現実を映し出している。
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情報源: NRC


