ロシア系資金がキプロス経由でオランダ映画配給市場に静かに参入
新興配給会社「18K Film」の背後に見え隠れするプーチン政権との接点
アムステルダムを拠点とする映画配給会社「18K Film」が、オランダ映画業界で急速に存在感を高めている。2025年のカンヌ映画祭では、国内36社が加盟する業界団体NVPIの老舗会員各社を抑えて話題作「Club Kid」の配給権を獲得。その潤沢な資金力の出どころに、業界では早くから疑問の声が上がっていた。NRCの調査により、その答えがついに明らかになった。
キプロスを経由した資本構造
オランダ商業登記所(Kamer van Koophandel)の記録によれば、18K Filmはキプロスの法人「Ayda Distributions」を親会社として設立されている。Aydaのウェブサイトは内容がほぼ空白で、映画配給会社であるとの記載があるのみだ。同社の役員の一人、アッラ・タナソワはロンドン在住のロシア人で、LinkedInのプロフィールにはロシアの映画配給大手「Volga Film(現VLG.Film)」の財務ディレクターと明記されている。
18K Filmのマネージング・パートナー、エリク・エンゲレン(ベルギー人、スペイン在住)はNRCのインタビューに対し、同社が「多くの国で活動する国際グループの一員」であること、そのグループがロシアの実業家セルゲイ・イェルショフ率いるVolgaであることを認めた。一方で、キプロス経由の資本構造については「財務ディレクターから提案された構成を採用しただけ」と述べるにとどまり、ウェブサイト上でイェルショフとの関係を一切開示していないことの理由を明確には説明しなかった。
ロシア文化省・国営テレビとの連携
問題の核心は、資金の出どころだけにとどまらない。VLG.Filmはロシア国内において配給だけでなく映画制作にも携わっており、2025年9月のサンクトペテルブルク映画祭では今後の製作・配給ラインナップを発表した。その中には「ロシア連邦首相府および文化省の協力のもと制作」と明記され、国営テレビ局「ロシア(Rossiya)」が公開を後押しする作品も含まれている。
エンゲレンはこの点について、「ロシアで配給業者として活動するには文化省のライセンスが必要で、映画の公開にも承認が求められる。それはオランダ映画ファンドの助成を受けた映画と同じようなものだ」と反論する。しかし、国家ぐるみの制作への関与は、単なる許認可手続きとは性格が異なると専門家は指摘する。
オランダ在住者・映画業界への含意
法的には現時点でイェルショフは制裁リストに掲載されておらず、ロシア資本との取引を禁じるオランダ国内法も存在しない。ただし、2022年3月にオランダ文化担当国務長官ギュナイ・ウスルはEUの文化相と連名で、ロシア・ベラルーシの政府機関および関連文化機関との「すべての公式・制度的協力の停止」を文化セクターに求める共同声明を発表している。この要請は現在も形式的には有効だ。
ハリウッドによるロシアの映画館への配給停止とともに始まったボイコットは、今や「紙の上だけの存在」とも言われる。それでも、ロシア政府との関係が透明性のない資本構造の下で進行しているという事実は、オランダ映画業界に静かな不安を残している。在蘭の映画ファンにとっては、普段スクリーンで楽しむ作品の配給権獲得の背後に、こうした地政学的な文脈が存在しうることを改めて意識させる事例といえるだろう。
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情報源: NRC


