オランダ最厳格難民施設で医師3人が相次ぎ辞職——「精神疾患患者が居る場所ではない」
フーヘフェーンHTLをめぐる医療倫理と制度の衝突
フローニンゲン州フーヘフェーンにある「ハンドハーフィング・エン・トーズィフトロカティー(HTL)」は、一般の難民収容施設で深刻な問題行動を起こした亡命希望者を対象とする、オランダで最も厳格な収容施設だ。入居者は外出を制限され、毎日の点呼が義務づけられ、日課プログラムへの参加を求められる。暴力行為を起こした入居者には、1日2時間しか部屋を出られない「ROV(処遇制限)室」が用意されている。そこで過去1年のあいだに、担当医師3人が相次いで辞職するという異例の事態が起きた。
医師たちが見たもの
家庭医のマリケ・ウームスがある日、HTL内の処遇制限室の扉を開けると、床一面に血が広がっていた。腹部に深刻な傷を負った入居者が横たわっており、まもなく手錠をかけられたまま担架で診察室に運び込まれた。「重篤な精神疾患を持つ2人を同じ処遇制限室に入れるべきではない。この2人はそもそもHTLに収容されるべきではなかった」とウームスは語る。彼女は6年間、毎週月・火曜日にHTLに勤務してきたが、1週間に3人の自傷・自殺念慮を持つ入居者を診察したことを機に、昨夏に辞職を決めた。もう一人の家庭医クラーラ・フェルベークは、「仕事が身体に染みついてしまい、常に疲弊していた」と述べ、燃え尽きた末に職を離れた。3人目の医師は今月辞職し、COA(難民受入機関)の方針を「耐えがたい重荷」と表現する書簡を同僚に送った。
「医学的判断」と「施設の論理」の衝突
HTLが2020年に開設された当初、精神科的問題を抱える入居者は「収容対象外」とされていた。しかし現在では、精神疾患は配置の「妨げになりうるが、必ずしもそうではない」という方針に緩和されている。ウームスとフェルベークによれば、当初は薬物依存を抱えるモロッコやチュニジア出身の若い男性が多かった入居者層が、次第に統合失調症、精神病、重度トラウマを抱えた人々へと変化していったという。フェルベークは「難民システムに翻弄され、仮設施設を転々とさせられる不安と待機の日々が、人を精神的に壊していく」と指摘する。
医師たちがCOAへの懸念を訴えるたびに、圧力がかかったとされる。「他の施設の問題を解決するために、HTLへ送れと言われた。私が却下した入居者が、後から別の者に承認されることもあった」とウームスは述べる。COAとGZA(亡命希望者医療サービス)はこの認識を否定し、「否定的な医療意見は原則として尊重される」と説明する。ただし「入居者や職員の安全が脅かされる例外的なケース」ではCOAが独自判断を下すこともあると認めている。さらにCOAは、医師による配置審査の手続き自体を変更し、現場の家庭医を介さず遠隔の外部機関から助言を求める仕組みに切り替えた。司法・安全省の監察機関も今年4月、HTLは「医療機関ではない」と明記した報告書を公表している。
在蘭日本人・オランダ社会への含意
この問題は、難民政策と医療倫理の接点に鋭い問いを突きつける。オランダ政府は近年、亡命申請の審査厳格化と収容施設の管理強化を推し進めてきた。しかしHTLをめぐる今回の騒動は、懲罰的な収容環境が精神疾患を悪化させるリスクを現場の医師たちが繰り返し警告してきたにもかかわらず、制度側がそれを組織的に無視してきた可能性を示唆している。代替施設として2020年の業務指示書にも名前が挙がる国立精神・司法施設「フェルトゥフト」(オーフェライセル州)への移送が検討されてきたはずだが、現場での活用は限定的なようだ。ウームスは「重大インシデントが起きる瞬間を恐れている」と言葉を残した。施設の「秩序維持」と入居者の「医療的ニーズ」をどう両立させるか——その答えを出さないまま時間だけが過ぎている。
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情報源: NRC


