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欧州のデジタル主権をめぐる問い――米国より中国が良いパートナーなのか
政治・行政 読了 3分

欧州のデジタル主権をめぐる問い――米国より中国が良いパートナーなのか

DigiD売却禁止が浮かび上がらせた、欧州の地政学的岐路

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オランダ政府がデジタル国家認証サービス「DigiD」を運営するSolvinityの米企業への売却を正式に禁止した。国務長官アーツ(デジタル経済・主権担当、D66)は今週、Solvinityが申し立てていた異議を退け、米ITサービス大手Kyndrylへの売却禁止を確定させた。DigiDは税務当局、医療保険、年金基金、各種行政サービスへのオンラインログインに使われており、オランダ市民の個人データに直結する重要インフラだ。この決定を受け、与党内では歓迎の声が上がった。

しかし政府自身は楽観論を戒める。アーツ国務長官は議会への書簡の中で、「オランダはアメリカの技術企業の存在とその貢献に大きな価値を置いている」と明記した。現実として、オランダをはじめ欧州の多くの企業・行政機関は、米国製テクノロジーなしに業務を円滑に回すことができていない。売却禁止は象徴的な勝利ではあるが、欧州が「米国のデジタル植民地」である現状を根本から変えるものではないという冷静な認識がそこにはある。

小さな代替、大きな問い

一方で、米国Big Techへの依存から脱却する動きも少しずつ現れている。オランダ税務当局はかつて導入を決めたMicrosoft 365の採用を見直し、自前のサーバー管理と欧州製オープンソースソフトウェアの組み合わせへ移行する方針を打ち出した。ハーグにある国際刑事裁判所は米国の制裁を受けてMicrosoftから欧州製の代替ツールに切り替えを余儀なくされた。ドイツのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州でも、州全体の行政システムをオープンソースへ段階的に移行する取り組みが進んでいる。ただしこれらは、欧州全体のデジタル依存構造から見れば「ささやかな一歩」にすぎないというのが大方の見方だ。

より根本的な処方箋を提示するのが、地政学アナリストのポール・ファーハーヘンだ。近著『The Techtonic Shift: Power, Tech, and the End of Nations』の中で彼は、米国がウクライナ戦争でロシア寄りの姿勢を示したことを根拠に「NATOは実質的にすでに死んでいる」と断じ、欧州は米国から離れて中国との関係を深めるべきだという挑発的な主張を展開している。中国は欧州に技術や希少資源を供給できる上、気候変動対応でも協力の余地があり、地政学的安定の維持に共同で貢献し得るという論理だ。ファーハーヘンも中国が権威主義体制であり、自由選挙が存在せず、深刻な人権侵害があることは認めている。しかしこの「必要な」地政学的転換は、最終的に欧州が自前の技術力を高め、真の戦略的自律性を確立するための時間を稼ぐ手段として位置づけられている。

価値観とリスクの天秤

ファーハーヘンの議論は刺激的な問題提起である一方、大きなリスクをはらんでもいる。台湾問題や人権問題は言うまでもなく、中国依存への転換は欧州の自動車産業をはじめとする産業構造にも深刻な打撃を与えかねない。そして何より、「監視国家」である中国との地政学的な接近が、欧州人自身の価値観や自己認識にどのような影響を与えるかという問いは軽視できない。DigiDのような市民の個人データを扱うインフラが中国系企業の手に渡る事態は、米国への売却と同様、あるいはそれ以上のリスクを生む可能性がある。

在蘭日本人にとっても、この議論は他人事ではない。DigiDは在住外国人が行政手続きをオンラインで行う際にも不可欠なツールだ。欧州のデジタル主権をめぐる議論の行方は、日常生活に直結するサービスの信頼性と安全性に直接影響を与えうる。米国でも中国でもなく、欧州が自らの技術基盤をいかに構築するかという問いは、これからも繰り返し問われ続けるだろう。

情報源: NRC

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