コーヒー好き・チーズ好きと高知能の意外な関連性――大規模遺伝研究が示すこと
UK Biobankの45万人データが塗り替えた「知能の遺伝学」
コーヒーをよく飲む、チーズを好んで食べる、テレビをあまり見ない、冬でも外出をあまりしない、交通量の多い道でついスピードを出してしまう——これらはいずれも、高い知能と統計的に関連する特性として、今回の研究で挙げられたものだ。アムステルダム大学のアブデル・アブデッラウイ氏とウェルカム・ゲノム・キャンパス(英国)のヒラリー・マーティン氏らが率いる研究チームが、この成果を科学誌Nature Geneticsに発表した。
「45万5千人」に広がった研究の射程
研究の基盤となったのは、英国の大規模バイオバンク「UK Biobank」だ。50万人分のDNAと生活習慣・健康データが蓄積されているが、実際に知能テストを受けたのはそのうちの27万人にとどまっていた。研究チームはこの課題に独自の手法で応えた。27万人のテスト結果と他の特性データとの相関パターンを導き出し、それをテスト未受験の参加者に適用することで「仮想的な知能スコア」を推計したのだ。この手法により、研究対象は合計45万5千人へと拡大され、知能の遺伝学の解像度は大きく上がった。
その結果、認知能力に関連する遺伝的変異の数は従来の390から550に増加。さらに、希少な遺伝変異が低認知能力と関わる26の遺伝子が新たに特定され、うち14は神経系の発達に関与することがすでに知られている遺伝子だった。
「大麻を一度は試した」も関連する理由
研究が列挙する「知能との関連特性」の中には、一見すると奇妙なものも含まれる。夜勤やシフト勤務をしない、コーヒーは多く飲むが紅茶はあまり飲まない、幼少期に十分な母乳を得た、大麻を少なくとも一度は使ったことがある——といった項目だ。
なかでも「大麻の経験」については、アブデッラウイ氏がメールで補足説明している。「これは間違いなく好奇心や試してみる姿勢の表れであって、常用や依存とは別の話です」。実際、大麻依存は別の研究で低知能と関連することが示されており、「適度な赤ワイン消費が知能と正の相関を持つ一方、過度な飲酒は負の相関を示す」というアルコールの例とも共通するパターンだという。研究者は、こうした小さな正の相関の多くは、社会経済的背景という「より深い要因」を反映している可能性が高いと見ている。
個人に当てはめるのは禁物
研究者たちが特に強調するのは、これらの関連性はあくまで集団レベルの統計的傾向に過ぎないという点だ。「知能は複雑な特性であり、環境にも大きく左右される」とアブデッラウイ氏は述べる。一般に、知能の個人差のうち遺伝的要因が説明できる割合は50〜80%とされるが、その遺伝的影響がどの程度発現するかは、教育の質や社会的機会といった環境要因によって大きく変わる。良質な教育と機会均等が整った社会ほど、遺伝的要因の説明力は増す——という逆説的な構造も指摘されている。
日常的な食習慣や生活スタイルが遺伝研究の「手がかり」として活用されるというアプローチは、データ活用の新たな可能性を示すものだ。一方で、「コーヒーを飲めば賢くなる」「チーズ好きは頭がいい」といった単純な読み替えは研究の趣旨とはまったく異なる。この知見を正しく受け取るためには、統計と個人の区別をきちんと意識することが求められる。
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情報源: NRC


