昆虫が戻ってきた—ナイメーヘン近郊で20年かけて育てた60kmの生態回廊
農家との信頼と「景観への愛着」が成功の鍵、クレーフェルト研究の第一人者が語る
夕暮れ時のオーイポルダー、低い西日を受けてユスリカの群れが金色に輝く。その中心に立つのは、ナイメーヘン大学の植物生態学名誉教授ハンス・デ・クロン(67)だ。乾ききった粘土質の地面に足を踏ん張り、淡々と周囲の生き物を観察する姿は、いかにも彼らしい。デ・クロンは2017年に発表した論文「クレーフェルト研究」で、ドイツの自然保護区において27年間で飛翔昆虫の総量が約4分の3失われたことを証明し、世界に衝撃を与えた研究者だ。だが今日は、破壊の記録ではなく「再生の現場」を案内してくれる。
60kmの生態回廊が生んだ変化
ナイメーヘン近郊の氾濫原・オーイポルダー(面積約2,000ヘクタール)での自然再生は、生物学者で農家出身のタイニー・ウィフマンが2005年に着手した。農家と手を携えながら生垣・池・花帯を整備し続けた結果、延長60キロメートルに及ぶ生態的回廊が現在は完成している。関与した博士課程の研究者ロビン・レクスモンドは、生垣の1メートルごとに昆虫の生息量が増加することを実証。池ではカンムリサンショウウオ——オランダ国内で生息数が減少している種——の定着も確認されている。
デ・クロンが2021年にノエル・アールツ教授(社会生態学)と共同で立ち上げた「リビング・ラボ」は、この再生の仕組みをより深く解明することを目的としている。生態系への効果の測定に加え、「どのような条件のもとで農家は自然再生に参加する意欲を持つか」という社会学的な問いにも取り組んでいる。
農家を動かすのはカネだけではない
その問いへの答えについて、デ・クロンは明確にこう語る。「多くの人が、すべてはお金の問題だと誤解している。もちろん、生垣や花帯の管理には報酬が支払われる。だが、それがすべてではない。景観への愛着がなければ、長続きしない。多くの農家がその感覚を持っている。ただ、あまりにも頻繁に上から目線で指図されてきた」。コミュニケーション、信頼、協力、尊重——それらすべてが、生物多様性回復の不可欠な要素だと彼は強調する。加えて「時間と空間も必要だ。数年間、狭いエリアをいじくり回すだけでは足りない」とも付け加えた。
クレーフェルト研究は、論文公開から数日間で20万回以上閲覧され、世界中のメディアが「生態的アルマゲドン」「昆虫の黙示録」と報道した。農業界からの反発もあったが、データの堅固さと、多くの人が「かつて車のフロントガラスは虫で汚れていた」と記憶していた体験の一致が、数字を揺るぎない事実として社会に刻み込んだ。「数字だけでは変化は生まれない。感情が必要だ。だからこそ、ウィフマンがオーイポルダーに来ないかと声をかけてくれたとき、迷わず足を運んだ」とデ・クロンは振り返る。
気候変動という新たな試練
一方で、課題は尽きない。この夏、ライン川とその分流であるワール川は記録的な低水位を記録した。かつてカンムリサンショウウオが豊富に生息していた池は干上がり、例年なら水面上を飛翔するクロアジサシが観察される川の支流には、今年はギャロウェイ種の牛が草を食んでいた。デ・クロンは「新聞で読むのも衝撃的だが、実際にここで目にすると、胸に迫るものがある」と静かに語った。
20年の積み重ねが示すのは、自然再生に「魔法の解決策」はないという事実だ。農家との対等な対話、長期的な視点、そして景観そのものへの愛着——それらが噛み合ったとき、昆虫は戻ってくる。オランダ各地で自然保護と農業政策の対立が続く中、オーイポルダーの経験は、一つの具体的な手がかりを提示している。
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情報源: NRC


