ハーグの老舗ジュネヴァ蒸留所「ファン・クレーフ」、250年の歴史と存続の危機
家賃高騰・エネルギー費・駐車料金政策が重なり、市内最後の蒸留所が岐路に
ハーグのランゲ・ベーステンマルクト通りに佇む「ファン・クレーフ蒸留所」は、1776年の創業以来、スペイン風邪、二度の世界大戦、そしてコロナ禍をくぐり抜けてきた。フィンセント・ファン・ゴッホが1869年から1873年にかけてこの通りの近くに住んでいたことから、彼も常連客の一人だったと伝えられる。しかし今、この250年の歴史を持つ蒸留所は、かつてなく複雑な経営難にさらされている。
重なる打撃——家賃、エネルギー、駐車料金
オーナーのフルール・クロイトがこれまで乗り越えてきた試練は枚挙にいとまがない。2015年には夫で共同経営者のルイ・セントアッツォが急逝し、自宅を担保に融資を受けて経営を守った。ジェントリフィケーションの波が押し寄せたことで周辺地域の賃料が急騰し、月々の家賃も大幅に上がった。さらにコロナ禍ではテイスティングルームを閉鎖せざるを得なくなり、それでもリモンチェッロやビタミンCをブレンドした「ファン・クレーフ・ワクチン」をスプレーボトルで販売するなど、機転を利かせて乗り切った。
そこへ追い打ちをかけたのが、ハーグ市の駐車料金政策だ。市が導入した1日一律50ユーロの駐車料金は、仕入れ業者や来客の足を遠のかせ、売上にさらなる打撃を与えた。この政策は2023年にイギリスの『ガーディアン』紙でも取り上げられるほど物議を醸した。エネルギー費の高騰やボトル用ガラスの値上がりなど、コスト面の圧力も増し続けている。クロイトは取材に対し、「96歳の祖母と同じ色の白髪になった」と苦笑交じりに語った。
交渉の行方と、それでも続く蒸留所
現在、ファン・クレーフが入居する建物を所有するのは地元の不動産開発会社「スタッズヘルステル・デン・ハーグ」だ。クロイトは2年以上にわたって同社と交渉を重ねてきたが、担当者が新任のヤン=ウィレム・デ・ブロイン氏に代わり、局面は新たな段階に入った。デ・ブロイン氏はDutchNewsの取材に対し、「ショップやテイスティングルームに加え、博物館や庭の再開発、アパートのアップグレードも含めた包括的な検討を進めている。この独自性あふれるハーグの遺産に持続可能な投資を行いたい」と述べた。一方、改修許可の遅れという行政側の問題も依然として解消されていない。
2025年に開始したクラウドファンディングは現在も継続中で、クロイトは前向きな姿勢を崩していない。ただ、万が一現在の場所での一般公開が困難になった場合には、ハーグ郊外での製造・卸売専業への移行も視野に入れているという。「でも、そうなればここにある何世紀分もの歴史がすべて消えてしまう」と、博物館に並ぶ古い蒸留設備を見渡しながら彼女は静かに語った。
在蘭日本人にとって、ファン・クレーフはハーグ観光の隠れた名所でもある。テイスティングルームや小さな博物館は現在も一般公開されており、ジュネヴァやリキュールの試飲も楽しめる。歴史的な建物と生きた醸造文化が共存するこの場所が今後どうなるか、交渉の行方が注目される。
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情報源: DutchNews


