ナイトライフが消えると何が失われるのか――オランダの海辺の町から
かつて9軒のディスコが並んだレネッセ、最後のクラブが閉幕へ
オランダ南西部のゼーラント州に位置する小さな海水浴地、レネッセ。かつてここは、毎夏、数千人もの若者が押し寄せる「オランダのナイトライフの聖地」だった。最盛期には9軒ものディスコが軒を連ね、入場を求める列が夜の浜辺に伸びていた。しかしその面影は今やほとんど残っていない。そして来週、ついに最後のクラブの一つが静かに幕を下ろす。
写真家が記録した「消えゆく文化」
この場所に、一人の写真家がカメラを持って訪れた。サミー・ジョー・ミュラーは自身の世代のナイトライフ文化を記録するため、閉店前のレネッセへと向かった。フロアを埋める若者たち、汗ばんだ笑顔、点滅するライト——彼女のレンズが切り取ったのは、すでに「終わりかけている何か」の断片だ。ミュラーはNRCのポッドキャストで、「ダンスは滅びつつあるのだろうか」と率直に問いかけている。その問いには、単なるノスタルジー以上の重みがある。
クラブが閉まる理由は一つではない。地価の上昇、騒音規制の強化、コロナ禍による打撃、そしてZ世代を中心とした若者のライフスタイルの変化——深夜まで踊り明かすという文化そのものが、以前ほど自明ではなくなっている。オンラインでのつながりが当たり前になった時代に、わざわざ暗いフロアに集まる必然性を感じにくくなっているとも言える。
「踊る場所」が失われることの意味
しかし、クラブとは単に音楽を聴く場所ではなかった。見知らぬ人と肩を並べ、言葉を交わさずとも同じリズムを共有する——そうした匿名的でありながら濃密な共同体験は、ほかの場所では容易には代替できない。社会学的に見ても、ナイトクラブは若者がアイデンティティを模索し、自由を実感する「第三の場所」として機能してきた。
レネッセの最後のクラブが閉じるのは、来週のことだ。一つの施設の閉店は、同時に一つの時代の終わりを意味する。オランダ国内ではアムステルダムやロッテルダムでも、クラブの閉鎖が相次いでいる。在蘭の日本人にとっても、異文化の中で偶発的な出会いを生んできたこうした空間の減少は、社会の多様性や活気という観点から無関係ではない。夜の街が静かになることで、都市や地域のコミュニティが失うものは、思いのほか大きいのかもしれない。
広告掲載にご興味のある方は こちら
情報源: NRC
関連ニュース

精子提供で121人の父に——法の抜け穴が生んだオランダの「マス・ドナー」問題

学生向け賃貸の6割が法定上限超過、アムステルダムでは97%が違法水準
