「大工になりたい」11歳のカイルが職業系VMBOを選んだ理由
実習重視の教育を自ら選ぶ子どもが減るなか、一人の少年の決断が問いかけるもの
幼い頃、彼のベッドにぬいぐるみはなかった。代わりにあったのは、プラスチックのハンマーと鋸だった。アムステルダム近郊に住む11歳のカイル・ハイセンスは、実習を重視した職業予備教育、いわゆる「実践的VMBO(Praktijkgericht vmbo)」への進学を、自分自身の意志で選んだ。「一日中本に向かっているのは自分には向かない。見たり触ったりしながら学ぶ方が、ずっと頭に入ってくる」と、カイルは迷いなく語る。将来の夢は、大工だ。
減り続ける「実践型」の選択
オランダの中等教育では、学術的な知識よりも職業的なスキルの習得を重視するVMBOが一定の役割を担ってきた。なかでも実践的VMBOは、教室での座学よりも実習や作業を通じた学びを中心に据えたコースで、建築・木工・調理・介護など幅広い職業分野への入口となっている。ところが近年、こうした実践型VMBOを選ぶ生徒数は減少傾向にある。保護者や学校が、より「上位」とみなされる学術系コースへの進学を優先させる傾向が強まっていることが背景にあると指摘されている。
カイルのケースはそうした潮流に逆らうものだ。親に言われたわけでも、成績の問題で選んだわけでもない。「自分がどういう学び方に合っているかを考えたら、答えは自然と出た」という。幼少期から工具を握って遊んできた彼にとって、手を動かしながら学ぶ環境は必然の選択だった。
「手に職」を見直す視点
職人や技術者の不足が社会問題となっているオランダでは、実践的な職業教育の担い手を育てることが急務とも言われる。建設業や介護分野では人手不足が深刻で、熟練した職人や技術者の需要は今後も高まると予測されている。その意味で、カイルのような生徒が実践型VMBOを選ぶことは、本人の適性に合った教育を受けるという個人的な問題にとどまらず、社会全体の労働力育成という観点からも重要な意味を持つ。
在蘭日本人の子どもたちにとっても、オランダの教育制度は小学校卒業時点で進路が大きく分岐するという特徴がある。学術系か職業系かという選択は、日本と比べてより早い段階で問われる。カイルの話は、学力や偏差値だけに縛られず、子ども自身の学習スタイルや興味関心を軸に進路を考えることの大切さを、静かに示している。将来、オランダのどこかの建築現場で、一人の大工が腕を振るっているかもしれない。
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