カレーの移民は、私の未来の患者——ロッテルダムの街頭医師が見た欧州の断絶
支援の現場と医療の現場をつなぐ、一人の医師の証言
フランス北部の海岸沿いに広がるカレーとダンケルクのキャンプには、英国を目指して足止めされた移民・難民が今も多数暮らしている。テントと泥濘の間で支援団体のボランティアが食料や物資を配る光景は、欧州の移民政策が生み出した現実の断面だ。そこに、ロッテルダムから一人の医師が足を踏み入れた。
「ここでは移民、後には患者」
ロッテルダムで一般開業医と街頭医師(straatarts)を兼務するミシェル・ファン・トンヘルローは、カレーとダンケルクの支援現場に同行し、ボランティアとともにテントや食料の配布を手伝った。その体験を通じて彼女が語るのは、二つの現場の間に横たわる時間軸だ。「ここではまだ移民と呼ばれている人たちに、私は何年も後になって再会します。欧州が彼らを足止めした後、うつや依存症を抱えた患者として」と彼女は証言する。カレーの泥の中にいる人物が、いつかロッテルダムの診察室に座る——その連続性こそが、彼女の言葉に重みを与えている。
制度の狭間で積み重なる傷
街頭医師とは、住所を持たないホームレスや社会的に孤立した人々を専門的に診る医師のことで、オランダの都市部では一定の体制が整っている。ファン・トンヘルローが日々向き合う患者の多くは、移民・難民として欧州に渡り、長期にわたる在留不明状態や社会的孤立を経た末に精神的・身体的に消耗した人々だ。欧州各国の入国制限や庇護申請の長期化が、こうした「見えない傷」を蓄積させる構造的な要因になっていると彼女は指摘する。カレーでの体験は、その入口——傷がまだ刻まれ始めていない段階——を自らの目で確かめる機会だったといえる。
在蘭日本人にとっての視点
この証言はNRCの「日曜のリスニング・ストーリー」シリーズとして音声配信されたもので、移民問題を政策論としてではなく、医療と人間の尊厳という視点から掘り下げている点が特徴的だ。オランダに暮らす日本人にとって、移民・難民問題は遠い政治的話題に映ることもあるが、ロッテルダムやアムステルダムの診療所や地域医療の現場では、こうした背景を持つ患者と医療従事者が日常的に向き合っている。ファン・トンヘルローの言葉は、欧州の移民政策が抽象的な数字ではなく、一人ひとりの心身の健康に直結していることを静かに、しかし確実に伝えている。
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情報源: NRC



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