電子レンジとブドウで太陽のプラズマを再現する実験
ライデンの学生宿舎の中庭から、核融合研究の最前線まで
ライデンのとある学生宿舎の裏庭。ビールケースの上に乗せられた年季の入った電子レンジを囲み、焦げたブドウが散らばっている。においはゆでたブドウと、かつてその電子レンジで温めたものが混ざり合ったような、なんとも形容しがたいものだ。NRCの記者がこの奇妙な実験を試みたのは、プラズマという物質の姿を自分の目で確かめるためだった。
ブドウが光る仕組み
プラズマとは、固体・液体・気体に続く「第四の状態」だ。なお、血液に含まれる血漿(けっしょう)とは名前が似ているだけで、まったく別物である。気体が極端な高温にさらされると、原子から電子が引き剥がされ、正負の荷電粒子が混在した状態——プラズマ——へと移行する。
この現象をブドウで再現できることを科学的に解明したのが、研究者のハムザ・ハッタク氏だ。電子レンジが発するマイクロ波は通常、食材の分子を振動させて温める。ところがブドウには、そのマイクロ波を内部に「閉じ込める」性質がある。二つのブドウを隣接させると、それぞれの中心にあるホットスポットが接触面に集中・融合し、より強烈な熱源が生まれる。この熱がブドウの皮に含まれるナトリウムやカリウムの原子から電子を弾き飛ばし、プラズマが生じるという仕組みだ。うまくいけば、電子レンジの中で小さな光の球——まさに「ミニ太陽」——がちらちらと瞬く。ハッタク氏は「長く続けると電子レンジの上部が溶けるので注意」と警告する。
宇宙で最もありふれた物質
プラズマは地球上では珍しいが、宇宙では逆に圧倒的多数派だ。太陽をはじめとする恒星のほぼ全体がプラズマで構成されており、地球にも「太陽風」として絶え間なく降り注いでいる。これらの荷電粒子は地球の磁場に沿って極域へと誘導され、オーロラを生み出している。磁場がなければ大気を吹き飛ばしてしまいかねない。磁場の弱い火星が薄い大気しか持てない理由もここにある。
一方、中性子星のような天体では大気そのものがプラズマで構成されるケースもある。宇宙の営みにおいて、プラズマは「例外」ではなく「標準」なのだ。
核融合炉との接点
プラズマへの関心は、基礎科学にとどまらない。オランダのエネルギー研究機関DIFFERの所長マルコ・デ・バール氏は、核融合エネルギーの実現にプラズマが不可欠だと語る。核融合では、重水素とトリチウム(それぞれ中性子を1個・2個持つ水素の同位体)を超高温で融合させ、ヘリウムと膨大なエネルギーを得る。この反応を維持するには、太陽中心部の約10倍という極端な高温でプラズマを安定させ続けなければならない。
その技術的難関の一つが、炉を覆う「ブランケット」と呼ばれる構造材の開発だ。エネルギーを取り出しながら反応に必要なトリチウムを生成し、かつ猛烈な放射線に耐え続けることが求められる。「適切な素材を見つけることが、今や何十億ユーロ規模の問いだ」とデ・バール氏は述べている。核融合が実用化されれば、燃料1キログラムあたりの発電量は石油の数百万倍に達し、二酸化炭素も排出しない。欧米や中国の公的機関に加え、民間企業も開発競争に参入しているが、商業規模での実現にはまだ相当の時間がかかる見通しだ。
ブドウと電子レンジという身近な道具から出発したこの実験は、プラズマという物質が宇宙と日常生活、そして未来のエネルギーをつなぐ存在であることを改めて示している。在蘭日本人にとっても、DIFFERをはじめとするオランダの核融合研究は、将来のエネルギー政策に深く関わる動向として注目する価値があるだろう。
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情報源: NRC



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