「白人男性は一歩下がって」——ソフィー・ストラートへの差別申告、両国で棄却
オランダ・ベルギーの相談窓口が「表現の自由の範囲内」と結論
オランダ人歌手ソフィー・ストラート(本名ソフィー・シュワルツ)が、フェスティバルでのパフォーマンス中に発した「白人男性は一歩下がって」という一言が、オランダとベルギーをまたぐ論争に発展した。しかし、両国の差別相談窓口は相次いで「差別には当たらない」との結論を下した。抗議ソングで知られ、アムステルダムのデ・パイプ地区でユダヤ系の家庭に育った同歌手をめぐるこの一件は、表現の自由と差別の境界線をどう引くかという問いを改めて浮かび上がらせている。
発言の経緯と相談窓口の判断
発端は今年6月、フェーフセ・ベルヘンで開催された「ベスト・ケプト・シークレット」フェスティバルでのパフォーマンスだ。ストラートはステージ前方でファンが激しく踊るモッシュピットで、女性やクィアの人々、有色人種のために「スペースを作ってほしい」と白人男性に呼びかけた。同月、ベルギーのゲントでの公演でも同様の発言を繰り返した。
これを受け、オランダの差別相談窓口「Discriminatie.nl」には数百件の苦情が寄せられた。しかし同窓口は、「この呼びかけはあくまで短時間・一回限りのモッシュピット内でのものであり、コンサートへの入場を拒否したわけではない」として、白人男性への人種・性別を理由とした差別には当たらないと判断した。ベルギーの差別相談窓口「Unia」にも約200件の苦情が届いたが、同様の結論に至った。Uniaのスポークスパーソンはフランドル放送局VRTに対し、「この発言は挑発的・攻撃的と受け取られる可能性はあるが、文脈上、象徴的・芸術的表現として捉えるべきだ」と説明した。
「表現の自由」の射程
Uniaがその判断の根拠として挙げたのが、ヨーロッパ人権裁判所の判例だ。同裁判所の判例法によれば、芸術的・政治的表現は、挑発・衝撃・不快感を与える場合においても、表現の自由として幅広く保護される。モッシュピットは本来、混雑した環境の中で弱い立場に置かれやすいグループが多く、アーティストがその場を調整しようとする行為自体は珍しいことではない。今回の判断は、こうした現場の文脈と表現の意図を重視したものといえる。
一方でストラート本人は、今月初めにInstagramを通じて、「性差別的・反ユダヤ的なヘイトメッセージや脅迫——なかには露骨かつ”創造的”なものも含む——が波のように押し寄せている」と告白した。また、「左派メディアはどこにいるのか」と問いかけ、公的な議論が右派によって主導されていると批判している。歌手は当初から「誰かを排除したかったのではなく、モッシュピットで安全を感じられない人たちのためにスペースを作りたかっただけだ」と説明しており、その意図と世論の受け止め方の乖離が、今回の騒動の本質ともいえる。
在蘭日本人への視点
今回の件は、オランダ社会における「差別とは何か」をめぐる議論の複雑さを示している。差別相談窓口が「差別ではない」と結論づける一方で、数百件もの苦情が寄せられたという事実は、この社会に根強い意識の分断があることを示唆する。在蘭日本人にとっても、こうした公共の場でのアーティストの発言やその法的解釈を知っておくことは、オランダ社会の価値観や制度的な枠組みを理解するうえで意味を持つだろう。
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情報源: DutchNews



