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精神障害と刑事責任能力——最高裁が判断基準を初めて明示
社会 読了 3分

精神障害と刑事責任能力——最高裁が判断基準を初めて明示

同じ精神病状態でも判決が大きく異なる現実に、司法はどう向き合うか

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精神病状態で犯罪を犯した被告は、刑事責任を問えないのか——。オランダではこの問いに対する法的基準が長年曖昧なまま放置され、類似した事件でも判決に著しい格差を生んできた。2025年、最高裁(Hoge Raad)はいわゆるThijs H.事件の上告審判決において、責任能力判断の基準を初めて体系的に示した。司法と精神医学の境界線をめぐる議論は、今も続いている。

似た事件、なぜ判決が異なるのか

2024年4月、ロッテルダムでは対照的な二つの判決が言い渡された。一方は、「ベアトリクス女王の命令で母親を斧で殺害した」と供述した32歳の男性。ロッテルダム地裁は彼を完全に責任無能力と認定し、刑事施設での強制治療を伴うTBS(terbeschikkingstelling)のみを科した。もう一方は、「声の命令に従い」路上で3人を銃撃した25歳のSchizophrenie患者の男性。こちらには14年の実刑とTBSが併科された。裁判官は「どこかであなたは自分が何をしているか分かっていた」と判断したのだ。

同じように精神病を抱えた被告でも、責任能力の評価がこれほど異なる。その背景には、オランダ刑法第39条が「精神障害」と犯罪との因果関係を要件とするだけで、具体的な判断基準を定めていないという構造的な問題があった。裁判官は精神科医の鑑定書を参照するものの、それに拘束されるわけではなく、各裁判体が独自の論理で結論を導いてきた。

最高裁が示した三つの問い

転換点となったのが、2022年に有罪判決が確定したThijs H.事件だ。H.は数日のうちに3人を刺殺し、専門家は重篤な精神病状態にあったと鑑定した。それでも控訴審は懲役22年を言い渡し、「行為の違法性と道徳的不許容性を理解できた」と判断した。

この判決を不服として上告審に進んだ末、最高裁は裁判官の独自判断を追認しつつ、判断枠組みを明確化した。裁判官が問うべきは、①被告に精神障害があったか(DSM分類に限定しない)、②その障害ゆえに行為の違法性を認識できなかったか、③そして行為を制御する能力が失われていたか——の三点だとされた。ライデン大学の法学者・心理学者ミヒール・ファン・デル・ウォルフ教授らが長年主張してきた「ドイツ型」の段階的審査に近い枠組みだ。

ユトレヒト大学で哲学を研究するヨハネス・バイルスマ氏はこの基準を歓迎する。「同じ基準で被告を評価することは、法的一貫性のためにも不可欠だ。精神科的に責任能力があるかどうかは最終的に法的問題であり、精神医学だけに委ねられるものではない」と述べる。

精神科医側の懸念と残る課題

一方、精神科医や心理士のコミュニティからは批判的な声が上がる。ウィレム・ポンペ研究所の専門家らは、裁判官がDSM分類に縛られず判断できるとなれば、「医学的領域と法的領域が乖離しすぎる」と警告する。ユトレヒト大学・自由大学で法精神医学と倫理学を担当するヘルベン・メイネン教授は、「違法性の認識」という基準の狭さを問題視する。重要なのは法律的な知識だけでなく、精神病が当人の現実認識全体に与えた影響——道徳的な判断能力を含む——だというのが彼の立場だ。

在蘭日本人にとってこの問題が直接降りかかる場面は少ないかもしれない。しかし、TBSという制度に対する誤解は広く社会に根付いている。現在オランダ国内には約1,600人がTBSクリニックに収容されているが、年間150〜250件というその適用件数は、決して「軽い処分」を意味しない。釈放の時期は本人の回復次第で決まらず、先行きが見えない拘禁はむしろ過酷だとファン・デル・ウォルフ教授は指摘する。最高裁が示した新基準が現場の裁判官にどう消化されるか、今後の判例の蓄積が問われる段階にある。

情報源: NRC

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