ハーグ在住著者のデビュー小説、ユーモアと歴史が融合した異色のスリラー
元ICC検察官が描く、ラスベガス発イタリア行きの珍道中ミステリー
ラスベガスで冴えない日々を送る美容師が、Instagramの求人広告をきっかけにイタリアの山岳地帯へと旅立つ——そんな設定から始まるデビュー小説『Bearer of Bad News』が、ひそかな話題を呼んでいる。著者はハーグ在住のアメリカ人作家エリザベス・ディーニ。ミステリー・スリラーにコメディ、さらには第二次世界大戦にまつわる歴史小説の要素まで詰め込んだ、欲張りで個性的な一冊だ。
失業・失恋・SNS求人——主人公レイの出発点
物語の幕開けは災難の連続だ。主人公のルーシー・レイは、俳優志望の彼氏を養うためにラスベガスで美容師として働いているが、その彼氏がオーディションの場でセレブ女優とキスしているところを目撃され、家を飛び出すはめになる。そんな折、Instagramに流れてきた「不幸の知らせを届ける使者」募集の広告が目に留まる。報酬は高く、舞台はヨーロッパ。話がうますぎると感じつつも、レイは依頼を引き受けイタリアへと向かう。
物語が単純な珍道中で終わらないのは、随所に挿入される手紙や文書の断片のせいだ。レイの華やかな祖母と、ナチス政権下で行方不明になったネックレスにまつわる謎が、現代の出来事と並行して語られる。読者はレイ本人よりも早く「何かが隠されている」と気づくが、それがむしろ読む手を止められなくする仕掛けになっている。
窃盗癖、バイラル炎上、そして歴史の重さ
本作の笑いの核心にあるのが、レイの窃盗癖だ。美容院のクライアントからTikTok撮影中のインフルエンサーまで、目についた小物をつい盗んでしまう。イタリアの山中でインフルエンサーと直接対決した場面が動画でバズり、レイと祖母の関係が世間に露呈するくだりは本書の白眉のひとつ。笑えるシーンが続く一方で、第二次世界大戦にまつわる過去の解明は重厚で、レイが自分自身の弱さや欠点と向き合う過程にも読み応えがある。
ただ、展開の速さは諸刃の剣でもある。コメディ的な寄り道、複数の恋愛関係、歴史的謎の解明と、詰め込まれた要素が多いぶん、物語の焦点が散漫になる場面もある。それでも、デビュー作としての勢いと独創性は十分に評価できる。
ICC元検察官が小説家へ——ハーグ発の新しい声
著者のエリザベス・ディーニはアメリカ出身で、国際刑事裁判所(ICC)の検察官として働くためにオランダへ移住した経歴を持つ。現在はハーグを拠点に執筆活動に専念しており、本作がその第一弾となる。在蘭日本人をはじめ英語で読書を楽しむ読者には、ハーグ在住作家の視点から生まれたこの作品はひとつの身近な縁となるかもしれない。書籍はアムステルダムのアメリカン・ブック・センターで手に入る。ソーシャルメディア時代の現代と、戦時中の歴史を行き来する異色のスリラーを、夏の一冊に加えてみてはどうだろうか。
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情報源: DutchNews



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