片方の脳を失った4歳の少年、「ベンのままでいたい」——驚異の回復
希少疾患「ラスムッセン脳炎」と闘う幼い命が見せた前向きな力
ある晴れた日の午後、庭で遊んでいた4歳のベンヤミン・ブロム君は突然倒れた。最初は「何かに躓いた」とも見えたかもしれない。しかしそれは、長く険しい医療的な旅の始まりにすぎなかった。家族は複数の病院をめぐり、数々の検査を重ねた末、ようやく一つの診断にたどり着く——「ラスムッセン脳炎」。
免疫系が自らの脳を攻撃する、極めて希少な病
ラスムッセン脳炎は、自分の免疫系が脳の片側を攻撃し続けるという非常に珍しい疾患だ。進行性の炎症により、患側の脳半球は徐々に機能を失っていく。けいれん発作が繰り返され、運動障害や言語障害が現れることも多い。有効な根治療法はいまだ確立されておらず、世界的にも症例数が限られている。
ベンヤミン君の担当医が選んだのは、左脳半球を意図的に停止させるという大胆な処置だった。これは「機能的半球切除術」に類する考え方で、病変のある側の脳を切り離すことで、残った側——ベンヤミン君の場合は右脳半球——が代わりに機能を担えるよう促す。医師たちはこれを「ハードリセット」とも表現した。幼い子どもの脳には高い可塑性があり、神経回路が再編される可能性が成人に比べてはるかに高いためだ。
言葉も歩き方も、もう一度ゼロから
処置の後、ベンヤミン君を待っていたのは、文字通りすべてをやり直すという現実だった。言語と歩行を一から学び直す必要があり、リハビリは長期にわたった。転んでも立ち上がり、うまく言葉が出なくても口を動かし続ける——そんな日々が続いた。家族のサポートと医療チームの伴走のもと、ベンヤミン君は少しずつ、しかし確実に力を取り戻していった。
注目されているのは、その回復の速度だけではない。ベンヤミン君自身が口にした一言——「ベンのままでいたい」——が、多くの人の心を打った。病気や処置によって自分が変わってしまうことへの素直な不安と、それでも前を向こうとする幼い意志が、たった一言に凝縮されている。
オランダでは希少疾患への研究支援や患者家族のネットワーク形成が近年広がりつつあるが、ラスムッセン脳炎のような極めて症例数の少ない疾患については、情報へのアクセスも支援体制も依然として限られているのが実情だ。ベンヤミン君の物語は、希少疾患を抱える子どもとその家族が直面する困難を社会に改めて問いかけるとともに、人間の脳と意志の底知れない力を静かに示している。
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