パスポートの「X」性別欄、法的認知と社会インフラの間に横たわる壁
約370人が取得した第三の選択肢、日常生活ではまだ機能せず
オランダのパスポートには、男性を示す「M」、女性を示す「V」に加え、どちらでもないことを示す「X」を性別欄に記載する選択肢がある。この制度を利用している人は国内で約370人にとどまるが、そのうちの一人であるジャーナリストのLieve Goversが、取得から1年を経た経験をNRCのポッドキャストコーナー「日曜の朗読物語」で語った。浮かび上がったのは、法的な承認と現実社会のシステムとの間に横たわる、埋まりきらない溝だ。
パスポートに刻まれた第三の選択肢
オランダでは法改正によってパスポートへの「X」表記が認められ、希望者は役所での手続きを経てこれを取得できる。Goversも約1年前にこの手続きを経て「X」を手に入れた一人だ。パスポートという公的身分証明書における性別の多様な記載は、ノンバイナリーやジェンダーノンコンフォーミングと自認する人々にとって、自己のアイデンティティが国家に認められたという象徴的な意味を持つ。
日常生活では依然として「MかVか」
しかし、その象徴的な一歩が実生活の利便性に直結しているかといえば、現状はそうではない。Goversの報告によれば、かかりつけ医や健康保険会社のシステム、さらには航空会社の予約フォームにいたるまで、性別の入力欄は依然として男性・女性の二択のみとなっているケースがほとんどだ。パスポート上の「X」をそのまま登録できるシステムは極めて限られており、当事者はあらためて「M」か「V」かを選ばなければならない場面が繰り返し発生する。法律が先行し、民間・医療・交通インフラが追いつけていないという構図がくっきりと浮かぶ。
社会インフラの更新という次の課題
今回の報告が示すのは、制度的な認知を得ることがゴールではなく、それはむしろスタートラインに立つことに過ぎないという現実だ。医療の文脈では、性別によって異なるスクリーニング検査や投薬基準が存在するため、「X」表記の患者をどう扱うかという実務上の問いも生じる。航空や保険といった民間セクターでも、データベースやフォームの設計を見直すにはコストと時間がかかる。オランダ社会が真の意味でノンバイナリーの人々を包摂するには、法整備に続く社会インフラ全体の更新が不可欠であり、それはまだ緒についたばかりといえる。在蘭の日本人にとっても、こうした制度の変化は行政手続きや医療機関との関わりに影響し得る動向として、引き続き注視する価値があるだろう。
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情報源: NRC



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