移民・分極化研究の泰斗2人が引退、「良い科学に左右はない」と警鐘
オランダを代表する社会科学者が語る、学問の政治化と社会の実像
オランダの移民研究と社会分極化研究をそれぞれ牽引してきた二人の大物学者が、同じ2025年に定年退職を迎えた。移民史家のレオ・ルカッセン教授(1959年生まれ)と社会学者のヤン・ウィレム・デュイフェンダーク教授(同)だ。NRCのインタビューに二人そろって応じ、学問の政治化、人種差別の正常化、そしてオランダ社会の「実像」について率直に語った。
「オランダは実は分断されていない」――統計が示す意外な現実
デュイフェンダークは近著『スポークルーベン(幽霊の亀裂)』で、世間に広まる「分断と格差の拡大」という認識に真っ向から異を唱えた。データを丹念に読み解くと、オランダ社会は過去半世紀で価値観の一致度も平等度も高まっているというのが彼の結論だ。「私自身も分極化・不平等パニックに染まっていた。しかし事実はまったく逆を示していた」と彼は言う。
ただし一点だけ、深刻な例外がある。資産格差は拡大の一途をたどっており、この問題だけは政治的にほとんど論じられていないというのだ。デ・ネーデルランドシェ・バンク(オランダ中央銀行)は議会への働きかけを続けているが、進展は乏しい。「社会が明日にでも崩壊するかのように語るのではなく、半世紀かけて不平等を減らせたという事実も正当に評価すべきだ」とデュイフェンダークは左派政党の「ドラマ化の反射」にも批判的だ。
「人種差別の正常化」に怒りを隠さないルカッセン
一方、ルカッセンが最も強く懸念するのは、人種差別的な言説が政治的に正当化されつつある現状だ。ウィルダース党首やその言説を取り込もうとするVVDへの言及を交えながら、「人種差別的な考えが野放しになっている」と警告する。とりわけ問題視するのが、極右グループや一部の議会内でも語られるようになった「置き換え論(omvolkingstheorie)」――移民が「本来のオランダ人」の社会を意図的に壊そうとしているという陰謀論的イデオロギーだ。「政治家はもっと声を上げるべきだが、その勇気がない」と彼は言い切る。
ポピュリスト運動の台頭については、当初は「平等に扱われたい」という正当な要求を含んでいたと二人とも認める。しかし今やそれは「われわれこそが本物のオランダ人であり、移民はどれほど努力しても永遠にそうはなれない」という優越感へと変質しつつある、とデュイフェンダークは分析する。
「学問の政治化」は誰が行っているのか
インタビューの中でひときわ鋭く議論が展開されたのが、「学問の政治化」をめぐる問いだ。オランダの議会では急進右派の政党が繰り返し「大学は左傾化している」「エリート主義だ」と批判するが、両教授はこれ自体が学問を政治的に利用する行為だと指摘する。「良い科学に左も右もない。その枠組みを持ち込んでいるのは政治の側だ」とルカッセンは断じる。
また、「政治的な観点の多様性」を学術的多様性の基準にすべきだという議論——ハーバード大学でも浮上しているという——に対しても、デュイフェンダークは明確に否定的だ。学術的多様性とは、研究者の社会的・地理的背景の幅広さによってこそ実現されるものであり、政党支持の多様性とは本質的に異なるという。
退職後も両者は公共の議論への関与を続ける姿勢を示している。「専門知識を持つ研究者は公的問題に発言すべきだ。面倒も多いが、それが自分の使命だ」とルカッセンは語った。在蘭日本人にとっても、移民政策への視線が厳しさを増すオランダ社会を理解するうえで、二人の洞察は示唆に富む。
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情報源: NRC



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