「超加工食品は依存性あり」は単純すぎる——栄養科学者ホール氏が新著で問い直す食と肥満
ドーパミン仮説の否定、ウェルネス業界への批判、そして「体の適応力」という視点
米国の栄養科学者ケビン・ホール氏は、数十年にわたり糖尿病と肥満の研究に取り組んできた。被験者を数週間にわたって研究施設に滞在させ、代謝をあらゆる角度から測定するという大規模な臨床試験で知られる。ニューヨーク・タイムズ紙のジャーナリスト、ジュリア・ベルズ氏との共著『Food Intelligence』のオランダ語版が今週発売され、「なぜ私たちは食べるものを選ぶのか」という問いに480ページをかけて向き合っている。
500kcalの過剰摂取——超加工食品の「本当の問題」
ホール氏の研究が示した最も重要な知見のひとつが、超加工食品(UPF)に囲まれた食環境の影響だ。ほとんど加工されていない食事を提供された被験者と比べ、超加工食品中心の環境に置かれた人々は1日平均500キロカロリー多く摂取した。ただしホール氏は、「超加工食品だから危険」という単純な図式には慎重だ。自身が好んで食べるというレンズ豆のパスタや保存料入りのトマトソースもUPFに分類されるが、「栄養バランスをみれば問題ない。食べすぎになりにくい食品もある」と語る。問題の本質は加工の「有無」ではなく、食感・エネルギー密度・特定の成分の組み合わせにあるという。砂糖・塩・脂肪が自然界に存在しない濃度で組み合わさった「超嗜好性」の食品は、消化管から脳の報酬系へのシグナルを通じ、満腹感よりも先に食欲を刺激する可能性がある。
ドーパミン仮説は「否定」、それでも断言はしない
食品の「依存性」をめぐる議論でホール氏が特に強調するのが、ドーパミン仮説の限界だ。「ミルクシェイクを飲んだときのドーパミン反応が、ニコチンやコカインに匹敵するかどうかを脳内で調べた。だがそうではなかった」とホール氏は明言する。むしろ肥満の人々はドーパミンの基礎値が高いという逆の傾向も見られ、従来の「受容体が少ない」という仮説とも異なる結果が出ている。そのうえでホール氏は「食品に依存性がないとは言い切れない。ただ、ドーパミンが脳を乗っ取るという説明は単純すぎる」と慎重な立場を維持する。低糖質と低脂質のどちらのダイエットも体重変化に大差がなかったという実験結果と同様、「体は驚くほどうまく適応する」という視点が、この科学者の議論の根底にある。
タンパク質信仰とウェルネス業界への警告
本書はタンパク質崇拝にも一章を割く。ホール氏によれば、現代の「高タンパク質信仰」のルーツは19世紀ドイツの化学者ユストゥス・フォン・リービッヒにまで遡る。人工肥料の発明者として知られるこの人物は晩年にダイエットグルに転身し、肉エキスの販売で財を成した。その仮説の多くは現在では否定されているが、「もっとタンパク質を」という言説は今も根強い。実際には多くの人がすでに必要量以上のタンパク質を摂取しているとホール氏は指摘する。筋肉増強を目指す場合や高齢者では最適量が若干高くなる可能性があるが、追加のタンパク質より筋力トレーニング自体の効果の方がはるかに大きいという。さらにウェルネス産業が押し進めるグルコースモニターや個人向け栄養プログラムについても、「根拠の乏しいまま強い主張をして製品を売っている」と批判。共著者のベルズ氏自身が、脂質摂取を増やすアドバイスに従った結果、コレステロール値が上昇したという体験談も本書に収められている。
オランダ在住の日本人にとっても、スーパーマーケットに並ぶ加工食品の多さや、SNS上のウェルネス情報の氾濫は身近な問題だ。「何を食べるべきか」の答えを単純な規則に求めるのではなく、食環境そのものと科学的根拠の質を問い直す視点を、ホール氏の研究は改めて提示している。
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情報源: NRC



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