フレボラントに希少なホバーフライが舞う——オランダで静かに進む花粉媒介者の危機
30年で最大90%減、340種の半数が深刻な減少傾向に
春のフレボラント州、広大なホルスターウォルトの森にノラニンジン(フルートクルイト)の白い花が揺れる。昆虫研究者のヨン・スミット氏が軽やかな手さばきで虫取り網を振ると、次々と小さな命が収まっていく。マルハナバチ、ハナアブの仲間、そして名前を聞いたことさえない希少種——。彼がこの森に足を運んだのは、2012年以来オランダから絶滅したと考えられていたホバーフライの一種「クロゲシロズホバーフライ(Leucozona inopinata)」を探すためだった。
ミツバチより地味でも、授粉への貢献は大きい
ホバーフライは、日本語でハナアブとも呼ばれる昆虫だ。その多くは黄と黒の縞模様でスズメバチに擬態し、天敵の鳥に食べられることを防ぐ。針もなく毒もないが、「見た目」が最大の武器である。EISナレッジセンター昆虫研究所のスミット氏は「ミツバチの次に重要な授粉昆虫だが、一般には蝶の方がずっと注目される。しかし蝶は体毛が少なく、花粉を集める効率ははるかに低い」と語る。
問題は、その授粉の担い手が急速に失われつつあることだ。ヨーロッパに生息する890種のうち3分の1超が絶滅の危機にさらされており、オランダ国内でも340種の約半数が深刻な減少傾向にある。さらにスミット氏によれば、少なくとも20種がすでに国内から姿を消した。総個体数で見ると状況はさらに深刻で、過去30年で年平均3〜4%ずつ減少し、累計では50〜90%が失われたとされる。原因として挙げられるのが、気候変動、農薬使用、そして窒素の堆積だ。農薬はアブラムシを通じてホバーフライの幼虫に取り込まれ、知らぬ間に個体を蝕んでいく。
全国150カ所でのモニタリングが始動
こうした状況を受け、EISナレッジセンターとナチュールモニュメンテンは今年、全国150カ所での花粉媒介者モニタリングを開始した。各地点では月1回、経験豊富な調査員が約300メートルのルートを歩き、左右1.5メートル以内に現れるミツバチとホバーフライをすべて記録する。「半分の時間は目を凝らして探し、残り半分はスマートフォンに入力している」とスミット氏は苦笑する。現在、両種を精確に識別できる調査員は国内に10名ほどしかおらず、専門的な育成プログラムも並行して進められている。欧州の自然回復規則は2030年までに減少傾向を正の方向へ転換することを加盟国に求めており、このモニタリングはその進捗を測る基盤となる。
「絶滅種」の再発見が意味すること
ホルスターウォルトが希少種の生息地となっている背景には、フレボラント特有のカルシウムを多く含む土壌がある。これによってトウヒなどの針葉樹が健全に育ち、クロゲシロズホバーフライの幼虫が好む環境が保たれている。この種は2012年を最後に目撃情報が途絶え国内絶滅と見なされていたが、2024年に再び確認された。国営林業機関スタートスボスベヘールの森林官エリック・ルーラント氏も「今春すでに複数回の目撃がある」と話す。
しかし当日の調査では、スミット氏のネットに件の希少種は現れなかった。「せめて白いタイプだけでも見られると思ったのだが」と落胆を隠さない彼が最後にこぼした一言が重い。「もし授粉昆虫が消えれば、人間の食卓にも直接影響が出る。私たちの食料の大半は昆虫による授粉に依存しているのだから」。在蘭日本人にとっても無縁ではない話——スーパーの野菜や果物を支える見えない働き手の危機は、静かに、しかし確実に進行している。
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情報源: NRC



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