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洪水リスク増大、主因は気候変動でなく人間の土木介入
社会 読了 2分

洪水リスク増大、主因は気候変動でなく人間の土木介入

ワーヘニンゲン大学の研究がNature Geoscienceに掲載、数百年の記録が示す河口の変容

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ゼーランド州の小村で育ち、幼いころから潮の干満に魅了されてきたヨリス・ビームスター。ワーヘニンゲン大学の研究者として、彼は数百年分の古文書や地図を丹念に掘り起こし、河口部の潮位差が著しく拡大していることを突き止めた。その研究成果は今年3月、学術誌「Nature Geoscience」に掲載され、大きな反響を呼んでいる。結論は明快だ――洪水リスクを押し上げてきた主な要因は気候変動ではなく、堤防建設・航路浚渫・干拓といった人間の土木介入である

河口を変えた数百年の工事

ほとんどの河口は自然にトランペットのような「漏斗形」をしている。水路が狭まり浅くなるにつれ、潮の波は高くなる。一方で、川の蛇行や堆積物、植生がその勢いを打ち消す。ビームスターは「かつてはこの二つの力がほぼ釣り合い、時に摩擦のほうが強いくらいだった」と語る。ところが人間は何世紀もかけて、その均衡を波の側に傾けてきた。

干拓によって広大な干潟が陸地に変わると、高潮が広がれる空間が失われ、波はより高くなる。深い港へ大型船を通すために川底は均され、蛇行は直線に改修された。スヘルデ川沿いを走る高い堤防の向こうに巨大コンテナ船が見える光景は、その歴史の積み重ねそのものだ。「現在アントワープへ向かうような船は、100年前にはあそこまで遡れなかった。航路を整備するために多くの河口が深く掘られた」とビームスターは言う。

ハンブルクで示された数字の重み

こうした変化が最も顕著に表れているのが、内陸深くに港を持つ欧州の大河川だ。セーヌ川、ロワール川、ドイツのエルベ川やヴェーザー川がその典型例として挙げられる。なかでもエルベ川のハンブルク付近では、かつて約1メートルだった潮位差が現在は3メートルを超えるまで拡大している。波が高くなるだけではない。水の流入が速く強くなり、排出も遅れることで水位がさらに上昇する。堤防をより高くする必要が生じ、川の塩分濃度が上がり、生態系も変わる。

嵐が重なれば影響は一層深刻になる。「嵐も同じ漏斗に入り込む」とビームスターは警告する。1953年2月、スプリング・タイドと嵐が重なってオランダを襲った「ウォーターノートランプ(大洪水)」は約1,800人の命を奪った。「堤防建設はすでに長く進んでいた。それが漏斗形を強め、潮が広がる余地を減らしていた」と彼は振り返る。

在蘭日本人にとっての意味

オランダは現在、1万年に一度の嵐にも耐えられる水準で堤防を整備しており、世界でも突出した洪水対策を持つ。しかしこの研究は、堤防だけが答えではないことを示唆する。対策の一つとして議論されているのが「脱ポルダー化(ontpolderen)」――かつて干拓した土地を再び自然に戻し、河口に広がりを持たせる試みだ。ただしビームスターは「解決策は複雑」と慎重な見方を示す。港の機能を維持しながら川底の掘削量を減らすことなど、経済的・技術的な制約が立ちはだかるからだ。

低地に暮らすオランダに住む日本人にとって、水との闘いはどこか遠い話ではない。この研究が提起するのは、気候変動対策だけで将来の洪水を防ぐことはできないという問いだ。人間が何百年もかけて変えてきた川と海の関係を、どう再設計するか――その議論はいま、政策の場でも始まろうとしている。

情報源: NRC

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