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ハーグの病院が翻訳端末100台を導入——「家族通訳」に頼らない医療コミュニケーションへ
社会 読了 2分

ハーグの病院が翻訳端末100台を導入——「家族通訳」に頼らない医療コミュニケーションへ

95言語・複数方言に対応、全国ガイドラインの先駆けとなったHMCの取り組み

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デン・ハーグの病院、ハーハランデン医療センター(HMC)の外来病棟に、スマートフォン型の小さな端末が置かれている。音声認識でオランダ語をイタリア語に、イタリア語をオランダ語に、数秒で翻訳する装置だ。脳損傷による言語障害を抱えるイタリア人患者のベッドサイドで、言語聴覚士のクリスタ・ドクテル=ケルクホフさんがこの端末を使いながらリハビリの評価を進める。患者はゆっくりと目を閉じ、うなずいた——指示が届いた瞬間だ。

言語の壁が命取りになる現場

HMCのワステインデ病院は、多文化地区トランスファールクワルティエルやスヒルデルスワイクに隣接しており、患者はトルコ語、ブルガリア語、ポーランド語、アラビア語、ウクライナ語など多様な言語を話す。年間約19万6,000件の外来診療のうち、相当数が非オランダ語話者だ。同院はオランダ最大規模の救急救命室のひとつを擁し、年間5万人が救急対応を受ける。

救急医療補助員のマーク・ファン・ロッサムさんは言語バリアのリスクをこう説明する。「腹痛がいつから始まったか、どこが痛いか、胸に広がっているかどうか——これらは診断に直結する情報です。それが伝わらなければ、重大な見落としにつながりかねない」。家族が通訳を担う場合、患者が長々と語った内容が「はい」の一言に圧縮されてしまうことも少なくない。あるケースでは、息子が母親の通訳をしていたため、終末期の本人意思が確認できないという倫理的な問題が生じた。

全国標準へと発展したプロトコル

こうした課題に向き合ってきたのが、上級看護師のシャーロット・ファン・レーウェン=アレンズさんだ。卒業研究から始めた取り組みが約3年かけてHMC全体のプロトコルとなり、2024年10月には「医療・社会福祉における言語バリアへの対応」全国ガイドラインの基礎として採用された。このガイドラインが対象とするのは、オランダ在住の非オランダ語母語話者、約250万人だ。

HMCは翻訳端末100台を全外来部門に配備し、各部門に常時少なくとも1台が使える体制を整えた。端末には95言語と複数の方言——アラビア語15種、英語14種、スペイン語18種——が収録されている。従来、多くの看護師はプライベートのスマートフォンでGoogle翻訳を使っていたが、個人アカウントへの患者情報の保存はデータ漏洩リスクを伴う。院内の業務用端末やセキュアな翻訳アプリへの切り替えは、プライバシー保護の観点からも重要な転換だ。各部門には「プロモーター」と呼ばれる推進担当者も配置され、同僚へのプロトコル浸透を担う。

専門通訳との使い分けが鍵

翻訳端末はあくまで日常的な会話向けだ。診断告知など繊細な場面では、専門の通訳者に電話でつながる「トルケンテレフォン(通訳電話)」の利用を医師に促している。昨年はこのサービスが1,363件利用された。言語聴覚士のドクテル=ケルクホフさんは「正確に伝わってこそ、良い医療システムといえる」と語る。

在蘭日本人にとっても、この動きは無縁ではない。オランダの医療機関を受診する際、言語の壁に直面した経験を持つ人は多いはずだ。HMCのような翻訳端末の整備が全国に広がれば、非オランダ語話者が自身の症状や意思を正確に伝えられる環境が着実に整っていく。患者情報の言語をカルテに記録する取り組みも始まったHMCの試みは、多言語社会オランダの医療が次のステージへ進む一歩といえる。

情報源: NRC

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