「ここで見捨てられるより、イスラエルの防空壕のほうがまし」——オランダ人歌手、反ユダヤ主義を理由に移住を決意
「ここで見捨てられるより、イスラエルの防空壕のほうがまし」——オランダ人歌手、反ユダヤ主義を理由に移住を決意
76歳のレニー・クール、5月末のコンサートを最後に永住移住へ
オランダを代表するポップ歌手のひとり、レニー・クール(76歳)が、5月末の最後のコンサートをもってオランダを離れ、イスラエルへ永住移住することを明らかにした。理由として挙げたのは、オランダ国内で近年急速に高まっている反ユダヤ主義だ。長年この国に根を張り、音楽活動を続けてきたアーティストによる決断は、オランダ社会に少なからぬ衝撃を与えている。
「感染者扱いされているようだ」——日常に忍び込む差別感
クールはオランダ紙ADの取材に対し、現在の状況をコロナ禍にたとえてこう語った。「あのころと同じ感覚がある。まるで感染者のように扱われ、近づいてはいけない存在とされているようだ」。こうした感覚は突然生まれたものではなく、日常のなかで少しずつ積み重なってきたものだという。差別的な視線や発言、そしてそれに対して社会が十分に声を上げないことへの失望が、最終的に移住という決断へと背中を押した。
「ここで見捨てられるくらいなら、イスラエルで防空壕に入るほうがまし」——この言葉は、現在もガザ紛争の影響で安全保障上の緊張が続くイスラエルへあえて向かうという選択が、いかに切実な思いから来ているかを端的に示している。戦時下のリスクよりも、オランダに残ることの精神的な苦痛のほうが重いと感じている、ということだ。
孤立するユダヤ系コミュニティの現実
クールの移住表明は、彼女個人の決断にとどまらず、オランダ在住のユダヤ系住民が置かれた状況を広く可視化するものとして受け止められている。2023年10月のハマスによるイスラエル攻撃以降、欧州各地でユダヤ系住民への嫌がらせや暴力事件が増加しており、オランダも例外ではない。アムステルダムでは同年11月、サッカーの試合後にイスラエル人サポーターが襲撃される事件が発生し、国際的な批判を集めた。
こうした背景のなか、オランダ国内のユダヤ系コミュニティの間では、自分たちの安全や存在が社会に十分に守られていないという危機感が高まっている。クールの言葉は、その感覚を公に代弁するものとして、多くの共感とともに受け止められた。
在蘭日本人にとっての含意
直接的に在蘭日本人の生活に影響を与える出来事ではないが、この問題はオランダ社会の多様性と包摂のあり方、そしてマイノリティが安心して暮らせる環境についての問いを社会全体に投げかけている。移民や外国人が多く暮らすオランダにおいて、特定のルーツや背景を持つ人々がどのように扱われるかは、社会の成熟度を測るひとつの指標でもある。レニー・クールの決断は、その問いに対するひとつの、重い答えだといえるだろう。
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