「計画できるは幻想」——オランダの妊娠28%が意図せぬものという現実
アムステルダムUMCの研究者が問う、避妊・中絶・自己責任という社会の神話
「妊娠は計画できる」——そんな前提が広く信じられているが、アムステルダムUMCの研究者ウィーケ・ボイマー氏はそれを「幻想」と断じる。同氏が行った意図しない妊娠に関する博士研究によると、オランダでは妊娠の約28%が意図しないものとされ、世界全体では実に半数に達するという。自身も研究期間中に妊娠・出産を経験したボイマー氏は、当事者への丁寧なインタビューを通じて、この問題の複雑な実態を明らかにしていった。
「自己責任」論が見落とすもの
「意図しない妊娠」という言葉は政策用語であり、実態を十分に反映していないとボイマー氏は指摘する。望まない妊娠もあれば、時期が早すぎただけで子どもは欲しかったというケースもある。住居を持たない状況でも、妊娠が判明した途端に産む決意をした人もいた。それほど、妊娠をめぐる人間の感情は単純ではない。
にもかかわらず社会では、意図しない妊娠を「女性が防げたはずのもの」として捉える風潮が根強い。ボイマー氏はこれを批判する。避妊薬には副作用があり、医師が患者の訴えに十分耳を傾けないこともある。避妊具は無償ではなく、ピルも完璧ではない。飲み忘れや服用タイミングのずれは日常的に起こる。「人はリスクの見積もりが苦手で、今まで大丈夫だったからと油断することもある」と同氏は言う。性的な場面で避妊を意識することは現実的に難しく、「情報を増やせば解決する」という発想自体に限界があると彼女は説く。
中絶をめぐる「神話」を解く
研究を通じてボイマー氏が強調するのは、中絶に関する誤解の多さだ。「中絶を受けるのはティーンエイジャーが多い」というイメージは事実と異なり、実際の中心層は25歳から35歳の女性だという。また、「中絶後に後悔や精神的ダメージを負う」という通説についても、研究結果は異なる像を示している。妊娠前から精神的に健康だった人は、中絶後も同様に健康であり、うつや不安への影響は最小限だったという。
3月末に開設されたオンライン中絶薬注文サービス「thuisabortus.nl」をめぐっては、医療従事者を含む各方面から批判が上がったが、ボイマー氏はこれを「補完的な医療手段として肯定的に評価できる」と述べる。背景には厳しい現実がある。オランダでは中絶薬を処方する一般開業医(GP)の割合は3.5%にとどまり、ランドスタット地域外では中絶クリニックまでの距離が遠い女性も少なくない。世界保健機関(WHO)がオンラインでの中絶薬処方を安全かつ適切なケアとして認めている点も、ボイマー氏は根拠として挙げる。
さらに同氏が問題視するのは、中絶がいまだにオランダ刑法の規定の中に置かれていることだ。「中絶は特別視されるべきではなく、不妊治療や耳の洗浄と同じように、必要に応じて受ける医療行為のひとつ」とボイマー氏は言い切る。「私は中絶推進派ではなく、選択推進派だ。それはすなわち、産む選択も支持するということでもある」。
在蘭日本人にとっても、避妊や中絶に関する制度・文化的背景の違いはオランダでの生活を理解するうえで重要な文脈となる。この研究は、個人の選択の問題として片付けられがちな意図しない妊娠を、社会構造の問題として捉え直す視点を提示している。現在ボイマー氏はエラスムス大学でポスドク研究員として、性的逸脱行動の問題に取り組んでいる。
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情報源: NRC



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